「この大会がなかったら、今の僕はいなかったと思いますね」。
笑顔で話してくれたのは、13日に若洲ゴルフリンクスで行われた「ISPS HANDA CUP・障がい者ゴルフ大会」上肢障害部門に出場した大岩根正隆さん。17歳のときのバイク事故で右腕を失った。しかし、21歳で出会ったスノーボードに人生を救われ、競技の世界へ。一度競技から離れたが、復帰後に全国大会で優勝し、2022年北京、2026年にはミラノ・コルティナパラリンピック大会に出場するなど現在も世界の舞台で活躍中。スノーボード上肢障がいクラス日本初のパラリンピアンとして、世界の舞台で戦い続けるトップアスリートでもある。
大岩根さんのゴルフの原点をたどると、"ISPS HANDA CUP・フィランスロピー障がい者ゴルフ大会"との出会いに行き着く。
「初めて出場したのは2013年でした。知人から『片手で100切れるなら、もっと上を目指せるんじゃないか』って言われて出場したんです。でも来てみたら、僕なんか全然ですよ。みんな本気で、90台で回る選手もたくさんいて、すごい世界だなと思いました」と笑って振り返る。
その時に優勝したのが、同じ上肢障害を持つ小山田雅人会員だった。
写真・2013年大会表彰式(当時アマとして出場していた小山田会員は前列右から3番目)
写真・2026年、大会サポートプロスタッフとして携わる小山田会員
「優勝スピーチで『来年1月からプロになります』って話されていて、『そりゃ強いわけだ』って納得したんですよね。でもそれ以上に、この人には夢があるなと思ったんです。なんか道を切り開いている感じがして。そこから小山田さんといろんな形でつながって、競技ゴルフの世界にのめり込むようになりました」。その小山田会員は、大岩根さんにとって今でも「師匠」と呼ぶ存在でもある。
「小山田さんが『一緒に世界に行こうよ』って声をかけてくれたんですよ。僕が正隆(まさたか)で、小山田さんが雅人(まさと)。二人とも“マサ”だから『ダブルマサで世界へ行こう』なんて話もあって」と笑顔がこぼれる。
その後、日本障害者ゴルフ協会(DGA)の競技に出場する中で、もう一人の大きな出会いがあった。A級ティーチングプロ資格を持つ吉田隼人会員だ。義足のトップゴルフプレーヤーとして活躍している。
「僕は吉田選手のことを“はーちゃん”って呼んでいるんですけど、本当にすごい選手なんです。飛ぶし、試合中にドライバーのフェースが割れたこともあるくらいショットも強い。彼にはツアープロの中でも戦える力があると思っています」とはっきり口にする。
初めて会ったのは関西で出場した大会の練習ラウンドだという。大会終わって会場のある兵庫県から一緒の車で帰ることになり「7時間くらいノンストップでゴルフの話をして。気づいたら仲良くなっていましたね」と振り返り、障害の部門は違うが、二人はすぐに意気投合した。
やがてその縁は海外へと広がる。吉田会員が英国や米国の世界大会に出場した2024年に、大岩根さんはキャディとして帯同することになる。
「はーちゃんから『思ったことをはっきり言ってくれる人がいい』って言ってもらって。キャディとして行かせてもらったんですけど、自分にとっても最高の勉強になりました。世界のトップ選手の考え方やプレーを間近で見られたし、『いつか自分もここでプレーしたい』と思いました」と目指すものが見つかった。
上肢障害者のゴルフは、一般的なスイング理論だけでは解決できない課題も少なくないという。
「片手のゴルフって、本当に工夫の積み重ねなんです。理論は理解できても、それをどう自分の体で表現するかは人それぞれ。小山田さんから学んだことも、はーちゃん(吉田隼人)から学んだこともたくさんあって、今の僕のゴルフはその両方のいいところを取り入れてできています」と笑顔を見せる。大会後もアプローチウェッジ一本を手に練習場へ向かう姿からは、強い向上心が感じられた。
また、パラスノーボードのトップアスリートでもある大岩根さんは、「ゴルフもスノーボードも、重心移動やタイミングがとても大事。自分の感覚と向き合いながら技術を磨いていくところが似ています」と語る。競技の垣根を越えて得られる学びも、ゴルフに夢中になる理由の一つとなっている。
現在はパラスノーボード日本代表として活動し、次回フランス開催のパラリンピックを目指している中でもあるが、ゴルフへの思いは少しも変わらない。
「実は......このフィランスロピー大会で優勝するのが夢なんです」と少し表情を引き締めた。
「もし優勝スピーチをする機会があったら、小山田さんのことを伝えたい。僕が競技ゴルフを始めるきっかけをくれた人なので。恩返しじゃないですけど、そういう形で感謝を伝えられたらいいなっていつも思っています」と胸中を話してくれた。
まだまだ挑戦したいことがあるといい「人に教えるのが好きなんです。ゴルフもそうだし、パラリンピックで経験したこともあります。『試合でどう緊張と向き合うか』とか、『どう自分のリズムを作るか』とか。僕だから伝えられることがある気がしていて」と、ティーチングプロ資格取得も検討中だという。
そして最後に、大岩根さんはゴルフの魅力についてこう語った。
「ゴルフって技術ももちろんですけど、人との出会いが一番の財産だと思うんです。金メダルを取っても、その瞬間は本当に一瞬。でも出会った仲間とのつながりはずっと続く。小山田さんとの出会いも、はーちゃんとの出会いも、この大会があったからなんですよ」。
2013年、ひとりの障がい者ゴルファーとして参加したISPS HANDA CUP・フィランスロピー障がい者ゴルフ大会。そこで生まれた出会いが世界へ挑戦する道を切り開いた。
「次の戦いはパラリンピック。そしていつかゴルフでも世界一を目指したいです」と語る大岩根さんの言葉には、挑戦を楽しみながら歩み続けるアスリートらしい力強さがあった。