ティーチングプロシニア選手権の第22代チャンピオンに輝いたのは、ティーチングプロA級資格を持つ渡邊英治(56歳)だった。
最終ラウンドは上位選手が風と難解なグリーンに悩まされる中、渡邊はゲームに集中し、着実にスコアを重ねて逆転優勝を飾った。優勝を決めた直後、率直な気持ちを聞かれると「とにかく最高です。本当にその一言ですね」と満面の笑みで答えた。
PGA入会から17年。長年レッスン活動に携わりながら競技への情熱を失わず、挑戦を続け、ついにティーチングプロシニア日本一の座をつかみ取った。
最終日は決して楽な展開ではなかった。「前半はずっと我慢でした。後半序盤のロングホールで3パットボギーが来て、本当は伸ばしたかったところだったのに。でもそのあとバーディが来て、またボギーが来て、連続バーディで。出入りは本当に激しかったですね」と、スコアカードにはバーディとボギーが並ぶ苦しい流れ。それでも大崩れせずにじっと耐え抜いた。
「正直、調子がものすごく良かったわけじゃないんですよ。でも大事なところでパットが入ってくれました。今日は我慢できたことが大きかったと思います」。
初日の第1ラウンドは伸び伸びとプレーができていた。最終ラウンドは首位と3打差からのスタート。優勝争いが期待されるラスト一組前は優勝を追いかけながら、追われるという戦いを強いられた。
「全国から集まった選手たちの中で、2日間トップ争いをするっていうのは特別ですね。ミニツアーとは全然違う感覚でした。『ああ、これが首位争いなんだな』って思いました」と見えないプレッシャーに揺らぐ経験を味わった。
終盤の17番パー4ホールは、優勝を引き寄せたワンシーンだ。セカンドショットはレッドペナルティエリアの方向へ飛んだが、ボールは石に当たってグリーン方向へと跳ね返り、まさかのグリーンオン。結果的に2パットでパーセーブに成功。「あれは運がありましたね。もう(優勝への)流れが来たかなと思いました」と振り返った。
そして迎えた18番をパーでしのぎ、後続最終組のホールアウトを待った。プレーオフ決戦と告げられたが、冷静でいられた。18番ホールを使用したプレーオフでは「アゲンストの風だったのでドライバーを握りました」とティーショットはピンまで130ヤード地点へ運んだ。続くセカンドショットはピン4メートルの距離へピタリと着けた。
「実はさっき(正規のラウンドで)も同じ場所に立っていたので、グリーンの情報が頭に入っていたんです」と有利な状況だと自負があった。勝負のバーディパットは「打った瞬間に入る感じがありましたし、ラインもグリーンの芽も分析できて、自信を持って打てました」と、ボールはカップへ吸い込まれ、大きく一歩踏み出し自然とガッツポーズ。
バーディでプレーオフを制し、見事な戴冠を果たした瞬間だ。
しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。2020年、シニアツアー出場を目指して選考会に出場。念願のツアーデビューを果たしたものの結果は予選落ち。それでも挑戦する気持ちが消えることはなかった。
さらに2022年には筋断裂による手術を経験した。「左の腱を3本切ってしまって手術しました。もう先生から『これはやるしかない』と言われました。1年で元には戻らなかったですけど、少しずつ取り戻してきた感じです」とリハビリを経て、大きな復活を遂げている。
昨年はさらにアクシデントが待っていた。ティーチングプロシニア選手権の大会当日、ふくらはぎの肉離れを発症し、スタート直前で欠場を決断した。過度なトレーニングが招いた結果でもあった。「あれは本当に悔しかったですね。これは無理だと思って当日の朝に帰りました。今年はその悔しさを晴らしたい気持ちが強かったです」。
この一年は、体への負荷を考えながらケガのないトレーニングを続けてきた。会場では連日、朝早くから練習グリーンに立ち、ラウンド後も他の選手が練習を早々に切り上げる中、最後までボールを転がし続けた姿も印象的だった。「やっぱりやらないともったいないんですよ。せっかく試合会場にいるんだから、少しでもいい状態に持っていきたい。だから最後まで練習しちゃうんです」と徹底して自分のモチベーションを高めて試合に挑んでいた。
渡邊は現在、神奈川県のKAWASAKI GOLFを拠点にレッスン活動を行っている。
「2年前からお世話になっています。練習環境もすごく良いですし、レッスンにも精がでます。自分のゴルフも本当に成長させてもらっています」と感謝する。
一方で「オヤジ研修会」と呼ばれる仲間たちがいて「39人くらいメンバーがいて、みんなで試合したりと、近い世代でゴルフを楽しんでいます。この優勝を泣いて喜んでくれているプロもいるみたいで」と笑い、彼らの存在もプロ活動の大きな支えになっている。ティーチングシニア選手権にも数名の仲間が出場し、渡邊のホールアウトを最後まで見届け、優勝を一緒に喜んだ。
「優勝という結果だけなら120点です。でも自分のゴルフとしては85点くらいかな。あと15点分は練習しなきゃいけないと思っています」と真面目な渡邊らしい言葉が返ってきた。
そして最後に、これからの目標を聞かれると「来年は自力でシニアツアーにも出場したいですし、プロテストにも挑戦を続けたい。そして、動けなくなるまでゴルフは続けたいですね。いつまでゴルフができるかはわからないですから」と言葉に力を込めた。
17年目にして手にした念願のPGAタイトル。渡邊の笑顔の奥には、たくさんの挫折とケガを乗り越えてきた強い意志がある。56歳で掴んだ優勝杯は、秋晴れの空に大きく輝いた。