大混戦となった「マルハン太平洋シニア」の最終ラウンドを制し、第13代王者の座に就いたのは、シニア2年目の51歳・岩本高志だった。
首位で迎えた最終日。4打差以内に17人がひしめく混戦模様のなか、岩本は追われる立場でティーオフした。
最終組の1番ホール。最後にティーショットを放った岩本のボールは大きく右へ曲がり、木に当たってトラブルエリアへ。「ボギーでも仕方がない」。そう割り切ってスタートした最終日は、決して順風満帆ではなかった。
それでも続く2番、3番で連続バーディ。苦しみながらもスコアを立て直し、優勝争いの中心に居続けた。
一方、シニア初優勝を狙う古庄紀彦、小林正則、ベテラン勢では増田伸洋、寺西明も次々とバーディを奪取。さらにタマヌーン・スリロットが3連続バーディを決めるなど、首位の岩本をじわりと追い上げる。
岩本はショットの不調に苦しんでいた。「アイアンも全然つかなかったし、初日とは球筋も違った。プレッシャーがかかっていたんだと思います」。前半終了後のハーフターンで気持ちを整理し、もう一度自分を立て直そうと自分に向き合った。
後半に入ると崔虎星も猛チャージ。2アンダーで出た崔は16番までに7つスコアを伸ばし、優勝争いは最後の数ホールまで混沌とした展開をみせる。
勝負の分岐点は17番パー3だった。スリロットが約2メートルのバーディパットを沈める一方で、岩本は「風を読み違えてしまい、一番いけない左奥へ外してしまった」と痛恨のボギー。両者は通算10アンダーで並び、運命の最終18番へ向かった。
決着の舞台となった18番パー5。先に仕掛けたスリロットのセカンドショットは風に流され池へ。一方、岩本のセカンドショットはグリーンをとらえた。スリロットは難しい上段ピンを攻略できず、岩本は冷静に2パットに集中し、バーディパットを沈めた。
通算11アンダーはただ一人、二桁アンダーを記録しての堂々たる優勝。賞金1000万円と数々の優勝副賞を獲得し「もう、本当に本当に嬉しいです」と喜びを爆発させた。
岩本はシニア1年目の開幕デビュー戦で4位に入ると4戦目のスターツシニアでツアー初優勝を飾り、IASSシニアで2勝目を挙げ、賞金ランキング4位に入るという輝かしい成績を収めた。シニア2年目の開幕戦は、最終日に一度は首位に立ったものの、専修大学の先輩・横田真一に逆転を許し4打差2位と悔しいスタートだった。
上位争いに加わってきたものの、最終日にスコアを伸ばせずチャンスを失うパターンに苦しめられながら、7月は海外シニアメジャーの全米シニアオープン、全英シニアオープンに初出場。全米では世界の猛者を相手に51位でフィニッシュした。
「海外メジャーでは、ビックネームの選手と実際に回りましたし、練習ラウンドもさせてもらって。こういうスイングやミスもするんだな、とか。いろんな経験を通じて、精神的に楽になったというか、良い意味で余裕が感じられた瞬間もありました。自分も力が1ミリも通用しないわけではなかった」と自信も芽生える。
「クラブ盗難にもあったり、荷物が飛行機に乗っていなかったりと、トラブルもあってかなりショックでしたが、現地で体験しないと、良い面も悪い面もわからなかった。でも、日本が当然いいです」と苦笑い。
「でも、またチャンスを作って世界に挑戦してみたい。宮本さんや藤田さんが実際に戦ってきたことは、本当に快挙だと思っています」と先輩プロの逞しさにあこがれも生まれてきたようだ。
優勝スピーチでは、「絶対に勝つんだという気持ちを忘れず、一打一打プレーしました」と岩本は語った。
開幕戦では逆転負けを喫し、その悔しさを胸に刻んできた。さらに全米シニアオープン、全英シニアオープンへの挑戦を経て、世界との差だけでなく、自らの可能性も知った。そして今回、シニアの大先輩でレギュラー20勝をマークしている谷口徹から授かった「勝てると思ってはいけない。でも勝つ気持ちは持たなければいけない」という言葉を胸に、最後まで戦い抜くことができたのは、谷口に感謝しかない。
そして、今回初タッグを組んだ帯同キャディの桑原久好(くわばら・ひさよし)さんにも助けられた。桑原さんは岩本がゴルフ場の研修生をしていた頃からの付き合いだといい「もう、長いですね。彼がネガティブなところとか、よく知っていますよ」と笑う。だからこそ“勝つ気持ち”という学びは、優勝に大きな貢献があったのだろう。
桑原さんは普段は富士吉田市にある“クラブリックゴルフガレージ”というゴルフクラブ工房で働く経営者でもある。「私はプロキャディではないんですよ。レギュラー時代にフジサンケイクラシックだけはキャディやらせてもらっていましたが、シニアは今回が初めてです」と岩本のゴルフをずっと見守ってきた理解者である。
「優勝、嬉しいですよね。この二日間も手首が痛いとか不安もあったようですが、静かに集中してプレーをする姿をみて、今回はいけると感じていました。最後まで素晴らしい戦いでした」と喜びをかみしめていた。
岩本の両親もコースに駆けつけ「サプライズで、きちゃいましたよ」と茶目っ気たっぷりに笑う。岩本は「12番あたりで弟の姿が見えて、あれって。今回も家族に優勝した姿を見せられて、良かったです」と親孝行もひとつできたようだ。
勝負に対する心の置き方を学び、世界の舞台で自らの可能性を感じたシニア5戦目。苦しみながらも掴んだ一勝は、岩本をまた一段成長させたに違いない。
視線の先にあるのは、日本シニアオープンのタイトル。新たな自信を手にした51歳の挑戦は、まだ続いていく。