今季シニア第14戦目「コスモヘルスカップ シニアゴルフトーナメント2025」の最終ラウンド。インからスタートしたダニー・チア(52)が65を出し7アンダーで一気に首位を捉えると、手嶋多一(57)が66ストローク、古庄紀彦が(51)が67ストロークとハイスコアを並べて、上位優勝争いへ加わってきた。首位と2打差でスタートした宮本勝昌は2つスコアを伸ばして通算7アンダーとし、チア、手嶋、古庄と宮本4人のプレーオフへ突入。
プレーオフ2ホール目で宮本が4打目をグリーンサイドのラフからウェッジでカップイン。残る3人はグリーンでバーディを決めることが出来ず、宮本が優勝。優勝賞金540万円と優勝副賞として予防医療フルセットと鳩山町特産品詰め合わせが贈られた。宮本は今季シニア4勝目、通算で10勝目を飾った。
大会の最終日は、最終組で戦う宮本にとって”息を呑む”展開を待ちうけた。
宮本は首位2打差2位からスタート。前半は順調に4つバーディを重ねて通算9アンダーまでスコアを伸ばすと首位を逆転。試合の流れは宮本に傾いたかと思われた。
後半12番で、30ホール目にして初ボギー。13番ですぐに取り返したが宮本は「妙に後半が難しい」と感じていた。上がり2ホールの17番パー3はこの日2番目に難しいセッティング。宮本はティーショットをグリーン左に外し、アプローチを寄せきれずボギーにしてしまう。
後続と1打差で迎えた18番では「パーを狙った」と宮本。ところがセカンドショットをダイレクトに池へ。4打目、そしてパーパットもうまくいかずボギーとしてしまい、先にトータル7アンダーでホールアウトしていたダニー・チア、手嶋多一、古庄紀彦とプレーオフ勝負に。
プレーオフは18番パー5ホールの繰り返し。1ホール目は全員が3オン2パットでパーと分ける。2ホール目。チアと手嶋は刻んで3オン勝負と仕掛け、古庄と宮本は2オンを狙った。古庄はグリーン手前のバンカー、宮本はグリーン奥のバンカーに入れてしまった。
古庄のバンカーショットはピン奥2メートル。宮本のバンカーは左足下がりで、ボールの落としどころは”順目の下り”という難易度の高い状況。渾身のショットはボールが上がり切らず、グリーン手前のラフにぽそっと落ちた。ピンまでの距離は10ヤード。グリーンサイドから4打目のアプローチは、すーっとカップに向かって転がり、そのままカップイン。ベテランシニアの技が光った見事な「バーディ」だった。
グリーンを取り囲んでいた”盛り上げ隊”は大歓声を宮本に送り、その雰囲気は続いてバーディトライする選手に少なくとも心理的な負担を与えた。最終的には3人ともバーディを逃し、宮本が今年のコスモヘルスカップの頂点に立った。
「(正規ラウンドの」17、18 番が消極的過ぎてこういう結果になってプレーオフ。だけど開き直ることもなく、諦めることもなく。出来るだけ気持ちをフラットに 1 打 1 打懸命やることを意識しました」と最終ラウンドを振り返った。
それに加えて「バミューダ芝の難しさに救われた感じ」だという。プレーオフ2ホール目は、宮本はグリーン外からのチップイン。3人はグリーン上で傾斜とラインの読み×タッチを合わせることに苦戦した。
宮本は今季シニア3勝目を挙げた「コマツオープン」までは上手くいっていた。ところが今年10月の「ファンケルクラシック」で大会3連覇を掛けた最終日では、首位2打差を追いかけスリロットとマークセン、宮本の3人プレーオフへ持ち込み、逆転優勝のチャンスを作った。ところがプレーオフ2回目でグリーンを狙った2打目を右に曲げてがけ下へ。4オン・2パットのボギーで脱落。「何事も負けるのは悔しいし、優勝以外はやっぱり…」と無念の思いを言葉にしている。
さらに翌週の「福岡シニアオープン」最終日では、前半4ホール目でマークセンを一度逆転しているが5ホール目をボギーにし、その後はじわりとマークセンに差をつけられ、優勝が逃げた。
「自分の中ではトップに立っていたのに、抜かされている状況が続いていたんですよね。どんな形であろうが、負けているようなイメージを止めれたのは良かったです」と胸をなでおろした。
この大会はコスモヘルスカップの名物“盛り上げ隊”60名とリーダーの山内鈴蘭さんが、スタートホールから全出場選手の活躍を願い、大きな拍手と力強い声援を送り届けた。会場の生き生きとした声援を受け、宮本は「雰囲気はすごくいい。シニアツアーで一番の盛り上がる大会だと思います。たくさんの声援は、僕にとってはプラスでした」と会場で聞こえたすべてのエールが宮本を優勝へと導いてくれた。
さらに「僕がシニア入りした年に比べると、どの会場もギャラリーが増えていると感じています。ペアリング表を広げてもらえれば、聞いたことのあるプロの名前が載っていて、だいたいみなさん話が止まらない」といたずらっぽく笑った。
「今日は天気が悪かったですけど、シニアの大会はたくさんのゴルフファンに楽しんでもらえると思っています」。53歳、4シーズン目にはいった宮本も、自信をもってシニアツアーの面白さに胸を張る。
最終日は宮本の家族、昔から応援を続けてくれているサポーター、そしてキングオオブシニアの技をじっくり観戦しようと18ホールを追いかける単身ゴルフファンの姿も多かった。
PGA明神会長は「宮本選手のスイングはクラブや腕、ヘッドの動き方なんか、私は昔から勉強になっているというか、不偏不動というイメージがあります。シニアの年齢になっても、スイングのイメージが変わらないのは、相当の努力をしているはず」と感服する。
さらに「50、60代のゴルフファンは、レギュラーから宮本選手のことを知っている。シニアで飛躍している宮本選手のプレーを実際にみてみたいという人も増えているのは嬉しい限りです」と最近の傾向を分析する。
シニアツアーの看板選手でもある宮本の勇姿は、来週レギュラーツアー(三井住友VISA太平洋)、続くシニア最終戦(いわさき白露シニア)で見ることができる。どちらの試合も「優勝するためのゴルフをするだけ」というポリシーに揺らぎはない。
最後に、会場へ応援に駆け付けた宮本の父・勝雄さんは「息子はゴルフには”ツキ”のある子です。今回プレーオフに持ち込んで勝つことができたのも”ツキ”がありましたね。私は今年2回も優勝を見させていただいて、うれしい限りです」と目を潤ませる。
日々の努力に加え、”ツキ”加わった最高の優勝はシニア通算10勝目という記念であり節目の優勝。「ゴルフはネガティブですが、ゴルフ以外はポジティブなんです」という宮本。その明るい性格も“ツキ”を引き寄せてきた。
表彰式後、宮本はそっと家族を手招き。三人は共に笑顔で優勝トロフィーを掲げ、ようやく手ごたえのある優勝を分かち合うことができたのだった。