
キャリーで300ヤードというドライバーショットを武器とする兼本貴司は今季、ショットの不調に苦しんでいる。「ドライバーが上手く打てない。プルフックが出る。出だしから左に行っちゃう」。2021年にシニア入りしてから2勝を挙げて、22年には賞金ランキング3位、昨年は同4位に入ったトップ選手が今大会に入るまで、来季のシードが得られる賞金ランキング30位圏外の36位と本来の力を発揮できずにいた。
それが大会初日は「67」で回って5アンダー・3位タイの好発進を決める。それでも今季は60台のラウンドが続いたのは6位タイに入った「倉本昌弘 INVITATIONAL THE EAGLEGOLFシニアオープンチャリティートーナメント」のみで、「毎日『69』が続くゴルフではまったくない。一発パッと出るけど、ズルズル落ちる。波が激しいゴルフであんまり期待していない」と手応えは薄かった。

本人が予想したように、2日目は後半の3連続ボギーが響いて「70」。それでも上位が伸び悩んだこともあって、優勝戦線に踏みとどまり、トップとは1打差のトータル7アンダー・2位で最終日を迎えた。
「いきなり左のカート道に飛んで行った」と朝イチから左に曲げて「いつもの僕に戻っちゃった」。1番はパーセーブするも、2番パー5でも右を狙ったティショットが左の林に飛んでボギーが先に来てしまった。続く3番パー4もボギーとして、6番パー4では池超えとなる77ヤードのセカンドショットが水しぶきを上げる。最初の6ホールでスコアを3つ落とし、一時は完全に優勝争いから姿を消した。
しかし、兼本はまだ死んでいなかった。8番からは怒濤の4連続バーディでリーダーボードを一気にかけ上がり、首位に迫った。ショットでは相変わらず「誤差が多い」ものの、「よくパターが入ってくれた」と、前半の借金3つを返済するだけでなく、貯金を1つ作った。4連続バーディ直後の12番パー3でボギーを叩くも、15番パー4でバーディを取り返して、17番ティでは首位と2打差。最終18番パー5はイーグルも計算できるため、まだ優勝を狙える位置で残り2ホールを迎えた。

この日の17番パー3のピンポジションは右の奥。しかも右からの横風で、ドローヒッターの兼本にとって狙いにくい。結局チャンスにつけることができず痛恨のボギー。首位との差は3打に開き、優勝の目は絶たれた。
最終18番パー5では持ち前の飛距離をみせて、ピンまで204ヤードの地点まで持っていく。グリーンの手前から左に池が広がるロケーションで、ピンポジションは左手前。「風は左から来ているんですけど、体が止まってフェースがかぶりそうっていうのもあった。あそこに乗って良かった」と、ピンとは逆の右サイドに乗せるもカップまでは20メートルを残した。そのイーグルパットは1.5メートルショートする。
この時点で最終組を回る兼本は、5人の4位タイ。バーディパットを入れると単独4位に上がる状況だった。「ボードを見た瞬間に単独じゃないとダメだと分かっていた。これを入れないと先がないなと(笑)」。5人の4位タイの獲得賞金は176万円、単独4位なら250万円と、最後の一打で74万円が変わってくる。さらに賞金シードまで考えたときに、もっと大きな意味を持つ。

昨シーズンは全13試合で賞金総額は6億3000万円。シードのボーダーラインとなる賞金ランキング30位の飯島宏明は558万7269円だった。今シーズンは3試合増えて全16試合。賞金総額は1億円増の7億3000万円で、ここからシーズン終了後の賞金ランキング30位を予想すると、647万4137円となる。もし兼本が最後のバーディパットを決め、250万円を加えると728万6140円でシード安全圏に入る。外せば176万円の加算で654万6140円。安全圏とまではいかない状況だった。
そんな重要な意味を持つバーディパットを慎重に沈めて、単独4位でフィニッシュ。兼本はホッとした表情を浮かべた。「今年は多分こういう感じで終わって、オフに休憩して、ちょっと肩も痛めちゃったし」と言いながら顔をしかめて右肩を押さえる。スイングの試行錯誤で動きを変えたことで、右肩は悲鳴を上げたようだ。シーズンは残り4試合。もうおそらく、スイングに不安を抱えてしびれる予選会に行く必要はない。「来年も皆さんの顔を見られるように頑張ります」と笑って会場を後にした。