
「第12回トラストグループカップ 佐世保シニアオープンゴルフトーナメント2025」の最終ラウンドは、トップと4打差に18人がひしめく大混戦でスタート。5アンダー首位で出た山下和宏(51)が7バーディ・2ボギーの5アンダー67で回り、通算10アンダーでシニアツアー初優勝を完全優勝で飾った。優勝賞金500万円を獲得し、賞金ランキングは57位から16位に浮上した。
2打差2位にはこの日ベストスコア66をマークしたシニアルーキーの海老根文博(50)が続いた。また12番パー3ホールでは清家和夫(61)と野仲茂(55)がそれぞれホールインワンを達成している。

大会初日とはうって変わって、予報通り朝から“佐世保の風”が吹き始めた最終ラウンド。
最終組でスタートした山下は、初優勝がかかるプレッシャーを感じながらティーショットを放っていった。山下は慎重にゲームを進め、前半ではフェアウェイからのショットをピンに絡めるゲームで、きっちり4つのバーディを仕留めることができ「単独トップでスタートして皆が僕の事を意識していたと思うんですけど、その意識されている中、前半スコアが出たのは良かった」と振り返っている。
しかし後半にゲームが動き始める。山下は12番で7メートルのバーディパットを決め、ここで二桁アンダーまでスコアを伸ばし、後続と5打差を着けることに成功。「ちょっと優勝が見えてきた」という目論見は外れ、ホール難易度の一番高い13番、二番目に高い14番で連続ボギーに。期待と不安が入り混じる。15番をパーで凌いだが、この時点で3組前でプレーするルーキー海老根が5つスコアを伸ばす大躍進。首位の山下とは1打差まで迫っていた。

しかし山下の集中力は切れなかった。16番パー5で7メートルのラインをカップインさせて差を2つに広げる。ところが海老根は上がり3連続バーディと猛追しており、山下が17番を終えると差は再び1つになっていた。天命は最終18番ホールにゆだねられた。
18番パー5、山下のサードショットはピンまで残り99ヤード。フォロ―の風を利用し「オーバーだけはしない」と58度のウェッジでしっかりとショットし、ピン手前2メートルに着けることができた。これは状況からして、最後に沈めるはずのウィニングパット。しかし山下は「ピンとの内側にも同組のパッティングが残っていたんですけどね、もう待てないと(笑)。悪いことしか浮かばなかったですし、怖かった。だけど正当な順番だったこともあって先に決めました」と、どうしても勝ちたかった試合だからこそ、冷静なラストパットを成功させたのだ。

1998年にPGAメンバー入りしてから27年。レギュラー、シニア通じてツアー初優勝を飾ることができた山下。これまでシニアツアーで優勝争いには2度挑戦し敗退。11月にはシニア3シーズン目を迎えようとするタイミングで、ようやく手にした”優勝”という二文字に「単独トップで迎えた朝は不安でした。今年はゴルフがしんどいって思っていて、それでもあきらめず、こんな機会に巡り合って…本当によかった」と、言葉にならない思いが込み上げている。

2008年にレギュラーツアーにシード選手として参戦。10年間シード選手として活躍したが優勝という結果にはつながらなかった。そして50歳というタイミングを迎え、”シニアツアー”という新しい場所でモチベーションを高く持っていられたのは、所属するザ・サイプレスゴルフクラブの応援と、大切な家族を養っていかないとという強い使命感が山下にはある。
「これまで17年間コースに携わらせていただき、現在はディレクターということでゴルフ場のあらゆる面からアプローチさせていただくまでに至っています。こうして”優勝”を伝えられて、喜んでいただけるといいです」と兵庫県にあるホームコースにこれまでの感謝を込めた。

そして「プロとして家族を養うために、ゴルフで戦っていますから」と家族のサポートにも感謝を忘れない。高校生と中学生のこどもたちにも「何か伝わるといい」とそっと思いを寄せている。
プロゴルファーを目指し、一緒に肩をならべて支えてくれた師匠である入江勉プロにも、ようやく“優勝”を報告することができる。山下は体調が優れないという師匠の状態もずっと気に掛けながら戦ってきており、この”優勝”がどうか良い薬になってほしいと心から願うばかりである。

佐世保シニアの期間中、一緒に行動を共にしてきた二人のシニアツアー出場プロが、山下の初優勝を心から祝っている。小泉洋人(写真左)は「嬉しい、の一言です。連戦だったこの4週間、正直良くなかったと思います。いろんな意味でふっきれて、前向きになった山下さんが気持ちよくショットを打てて、こうしてチャンスをものにできたのは、精神的な強さもふくめさすがだなって」と敬服する。
杉山佐智雄もずっと一緒に練習してきて、切磋琢磨してきた。「嬉しいしか言葉がない。仲間の優勝がいい刺激ですし、自分の目標も新たにすることができる」と二人にとっても良い影響を及ぼしたに違いない。
今季シニアツアーは5戦を残し、佐世保ではシニアを盛り上げる新しいスターが誕生した。50歳から新たなステージに挑戦するシニアプロのドラマチックなサクセスストーリーに、希望と期待が寄せられている。

(写真・大きなトロフィーを掲げた山下和宏に大きな笑顔が広がった)