
「父が来ちゃったんですよ」とアテスト終了後、ちょっと焦った様子で小声でスタッフに話しかけてくれたのが岩﨑裕斗だ。父・智也さんは、来場することは本人には全く知らせずに「息子の成績を見て、居ても立っても居られなくて。名古屋から始発の新幹線に乗って烏山まで6時間かかりました」とサプライズ成功に嬉しさを隠せない様子だ。岩崎は最終ラウンド73としたが通算1オーバー27位タイ、最終プロテスト3度目の挑戦でようやく合格を果たした。
岩﨑がゴルフに出会ったきっかけは、両親が連れていってくれたスポーツクラブ企画のスナッグゴルフ体験会だった。クラブでボールを打つ"新しい体験"をした親子は、ゴルフの面白さに魅了された。「すごく楽しかったことを覚えています。それからはすぐにゴルフに夢中になりました」と当時を振り返った。親子でゴルフの経験はゼロだが、その後息子はゴルフの道を選択することになる。

岩﨑は長野にある佐久長聖中学・高等学校へ入学。親元を離れて寮生活の中でゴルフの腕にますます磨きをかけていく。大学は地元・愛知にある中京大へ進学。プロゴルファーを目指すまでに成長した。
ところが岩崎は「当初は楽しかったですけど、プロ転向を表明したら必死でボールを追いかける自分がいて楽しくなくなった」と気持ちの揺れを感じていた。大学4年の時に初めて受けた最終プロテスト(2023年登別)はトップと7打差で不合格。翌年の最終プロテストは合格ラインまで13打と大差をつけられ、実力不足を痛感せざるを得なかった。
「いったんゴルフ漬けの生活を変えて、何か新しいことをはじめたい」と、父親から頼まれていた“行政書士”に関係する事務仕事を受け入れることにした。行政書士の資格は取得してしていないが、事務所で求められる仕事にはやりがいも感じていた。

昼は会社勤めの正社員、夜の時間は母校の中京大学に出向き、ゴルフ部コーチとして後輩の育成にあたっている。「忙しい毎日ですが、効率よく練習するようになりましたし、社会的な視野も広がりました」とメリットを感じている。
そんな社会生活の機会を与えてくれた父親に、息子は感謝の気持ちでいっぱいだ。「昔からたくさん迷惑をかけてきて…ほんとうに頭があがりませんし、顔を見れない」と父の足元に目線を向けた。父親は「そんなことない。節目節目で子どもの挑戦に立ち会わせてもらってきて、ようやく実力でプロテスト合格ができて本当に良かったね。だから今回で(息子を)サプライズするのは最後になるかな」と微笑んだ。
大差で敗れた最終プロテストから丸一年。今回はゴルフ関係以外にもたくさん声援をいただいて、3度目のプロテストに挑戦した。「3年かかりましたが、それくらいプロになることの大変さとか重みがある。長かったです」と岩崎の顔には充実感が広がっていた。

さて、名古屋から6時間かけて新幹線でやってきた父は「帰りは俺が運転してあげるよ」というと、息子は「僕の車だから僕が運転する」と譲り合わない岩﨑親子。結果、父が「じゃあ帰り美味しいものでも食べながら、半分ずつ運転交代して帰ろう」と提案することで意見は落ち着いた。
これで最後になる父のサプライズ作戦は成功し、帰路は親子で過ごす最高の時間になったに違いない。