グランドの部では、首位と5打差の4オーバーからスタートした高橋正博(61)が、最終ラウンドで唯一のアンダーパー71をマーク。通算3オーバーとしてクラブハウスリーダーで、残り3組の上がりを待った。最終組、首位からスタートした宝力寿教(66)がスコアを4つ落として、通算3オーバーで高橋と並びプレーオフへ。18番パー4の繰り返しで行われた2ホール目。高橋がグリーン周りの難しいアプローチでピンをオーバーするミス。先に2オンしていた宝力がパーパットを沈め制勝。宝力は2019年以来、ティーチンググランドシニア2勝目を挙げた。昨年より倍増した優勝賞金50万円と来年の日本プロゴルフグランドシニア選手権大会の出場資格、優勝副賞には阪神交易よりピンシーカープロX3プラスジョルトが贈られた。
表彰式を終え宝力は「本当に嬉しい。烏山城での試合はこれで2つ、完全優勝できました」と顔をほころばせた。2019年の同大会は11月下旬に雪もちらつく寒空の下で開催された。当時宝力は得意のコースということもあり、バーディを重ね、逃げ切り優勝を果たしている。仲間からも「心臓の強さは宝力さんが一番」と言わしめるほど、寒さと風の中で力を発揮できるのは宝力の強みでもある。
今年の大会でも、初日に唯一のアンダーパーをマークしたこともあり、宝力が簡単に逃げ切るかと思われていた。当の本人は「3年ぶりですかね、試合でアンダーパーが出せたので、嬉しかったですし、真面目にやりすぎました(笑)」と、最終ラウンドの前半で4つのボギーを重ねて、試合を混戦模様に仕立ててしまった。
ハーフターンの中間スコア速報で小嶋光康に1打逆転され、高橋正博と並ばれたことを確認し「風が強いから、これ以上スコアが伸びない」と判断。最終組ではライバルたちがスコアを落とす姿を目の当たりにしていたこともあり、ゴルフのギアを一段上げてバックナインをスタート。10番でバーディを奪取。しかし続く11番でボギー。我慢を強いられながらも「自分が一番コースとグリーンを知っている」と自信をみなぎらせた。15番でバーディがきたが、16番でボギー。思うようなゴルフをさせてくれないのが烏山城。18番では1.5メートルのラインを読み切ってパーセーブ。通算3オーバーで並んだ高橋とのプレーオフ勝負に進むことになった。
1ホール目は両者パー。2ホール目。ティーショットは両者ともに右サイドの斜面へ。セカンドショットは高橋の球がグリーンからこぼれ、アプローチではピンをオーバーし6メートルほど距離が残ってしまった。先にツーオンしていた宝力が「ミスしたらつまらないことになる」とラインを読み、集中して構え直す。2パットをきっちりとしずめてパーで制勝したのだった。
高橋は「終盤の17番で刻むかどうかを悩んだのが敗因でした。上がり18番ホールのパッティングも1メートルを決めきれなかった。自信の無さが最後まで現れてしまった」と肩を落とした。それでもプレーオフを戦い切り、仲間のプロからは両者に健闘を称える拍手が惜しみなく送られていた。
「優勝できたのにはラッキーもあります。今回は高橋さんがパッティングをまっすぐ打ったけど、結果スライスしてミス。そういう流れも勝因だったかもしれない」と振り返った。
ティーチングプログランド選手権2勝目については「前回はね、特にこれといったメリットも無かったよ(笑)。だけど当時と変わらず毎日休みなくレッスンを続けられています」と言い、現在は東京、成田エリアでのレッスンと、週に一度、小学生を対象にしたジュニアレッスンを提供している。
中でもジュニア指導で影響を受けたのがJLPGAの杉山仁美プロ。「彼女はアメリカでもジュニアレッスンで表彰されているし、子どもたちへのアプローチが素晴らしい。僕もジュニアを教えることが楽しいので、すごく勉強になっています」と刺激も受けている。宝力には上は高校生、下は最近誕生した7人の孫がいる。「子供も可愛いけど、孫たちはもっと可愛い」とジュニアの存在は宝力にパワーを与えてくれている。
それと、宝力には忘れてはならない存在がいる。2019年、地元栃木で宝力の恩師でもあった佐藤剛平が、5月に日本プロゴルフグランドシニアで優勝を飾った。佐藤が感涙する姿に、宝力も恩師の後に続きたいと同年のティーチングプログランドで優勝。「剛平さんにはアベック優勝だなと言ってもらった」と喜びを分かち合った。その後佐藤は2022年12月に病を患い逝去。宝力は「剛平さんと実父の死が続いたことは辛かった。受け入れられなかったですし、立ち直れなかった」と打ち明けた。
体調も崩しゴルフもままならない日も続いたが、今年に入りようやくゴルフができるまでになり、優勝を掴むことができた。「剛平さんの墓前に手を合わせて、優勝を報告したいです」と故人を懐かしみ、思いを馳せた。相性のいい烏山城で優勝できたことは、宝力にとって人生の財産になるに違いない。