今年の「ファンケルクラシック」は宮本勝昌が初日から首位の座を守る完全優勝で、シニア初勝利した昨年大会に続いて2連覇を達成。昨日の2日目は強風、今日は気温が10度近く下がった寒い中でただ一人、2桁となるトータル13アンダーまで伸ばし、今季3勝目、シニア通算6勝目を挙げた。宮本と同じ最終日最終組で回った片山晋呉と、チューズデートーナメントから本戦切符を掴んだ太田祐一がトータル9アンダーで2位タイ、平塚哲二と古庄紀彦がトータル8アンダーで4位タイに入った。
終わってみれば後続に4打差をつける圧勝劇。しかし、「今までの優勝の中で一番苦しかったと思います。本当に苦しかった」と宮本は振り返る。最終日はトータル9アンダーで宮本がトップ、1打差のトータル8アンダーで片山、3打差のトータル6アンダーで古庄紀彦という最終組。午前中に止むはずだった雨は昼過ぎまで降り続け、気温はまったく上がらない。そんな空模様を映すかのように、宮本のフロントナインは耐える展開が続いた。
3番パー4のセカンドで1メートルにつけてバーディが先行させたものの、4番パー3では左ピンを狙ったティショットを、グリーン右へ外す。パターでのアプローチは1.7メートルショートしたが、それを沈めてピンチをしのぐ。続く5番パー4でもトラブル。ドライバーでのティショットを右斜面のラフに曲げ、木の中からのセカンドショットは枝に当てて、今度は左のラフへ。50ヤードほどのアプローチを2メートルに寄せて、これも何とかパーで切り抜けた。
「ゴルフの調子も本当に良くなかったので、ピンチの連続でした。4番、5番は本当にナイスパー、ナイスパーでした」。7番パー4ではフェアウェイからのセカンドショットをグリーン奥のバンカーに入れるも、下り傾斜に打っていく3打目を50センチに寄せてパー。前半の最後、9番パー5ではドライバーでのティショットが右へ大きく曲がったが、レイアップした102ヤードの3打目を52度のウェッジで2メートルにつけて、この日2つ目のバーディを奪った。
前半は耐えながら2つ伸ばし「前半の9ホールは3番と9番しかチャンスらしいチャンスがなかったので、ヒット2本で4点くらい取った気分ですよね」と表現する。追う片山らもスコアメイクに苦労しており、この時点では2打差。折り返した10番パー5で、宮本が連続バーディとしたことで、トーナメントは宮本のペースで進んでいくことになる。12番パー3でこの日初めてボギーを叩くも、13番パー4で1メートル半につけてバウンスバック。終盤の16番パー4で1.2メートルのバーディパットを沈めて4打差とし、そのまま逃げ切った。
「展開の“あや”というか、僕のピンチが多かったので、そこが決まってなければ、シンゴに逆転されていただろうし、精神的な立場も入れ替わっていたと思う。ゴルフって面白いですね」。逆転優勝を目指していた片山は、2日目まで好調だったティショットが、7番では隣のホールに曲げてボギーを叩くなどリズムを掴むことができず、ラウンド後は「下手なだけ」と吐き出した。そして勝者に対しては「いいゴルフだった」と称える。
水城高校、日大の同級生でプロ入りしてからも第一線で活躍を続けてきた宮本と片山。シニア入りしてからも幾度となく優勝争いを繰り広げてきた。「レギュラー時代にシンゴと最終組で優勝争いをして僕は勝ったことがないんですよ。ほぼほぼ完敗ですね。10対0とかそんな感じの記憶しかない。接戦もないと思います。初めて勝ったかなと僕は思っています」。
最終18ホールでウイニングパットを沈めると、側にはいつものように師匠の芹澤信雄が笑顔で出迎えて、ガッチリと握手を交わした。御殿場在住の宮本は、会場の裾野カンツリー倶楽部まで家から車で30分かからない距離。今週はホールアウト後にパッティング練習を行い、チームセリザワゴルフアカデミーがある太平洋クラブ御殿場コースに移動してボールを打ってから自宅に帰っていた。
「僕が行くと絶対に師匠が先に練習していて、毎日僕より後に帰っているんですよ。師匠は来月65歳になるんですけど、ずっと続けている。ゴルフのアドバイスだけじゃなく、背中を見せてもらっている。藤田さんもそうなんですけど、いい所に入ったなというか、いい人たちの元で練習させてもらっているなとつくづく思います。一生師匠ですね」
いつもは芹澤とともに宮本を祝福するはずの兄弟子、藤田寛之の姿は今週ない。米国シニアツアーのプレーオフシリーズ第1戦「ドミニオン・エナジー・チャリティクラシック」(米バージニア州)に出場して、シード獲得を目指し戦っている最中なのだ。2日目を終えてトータルイーブンパーの33位タイで、このままの順位で終えると、次週の第2戦「シモンズバンク選手権」に進むことができる。
「藤田さんは初日が終わった後に『ナイスプレー』ってラインがきました」。藤田はアメリカから宮本のプレーをチェックしているが、米シニアツアー挑戦を明言している宮本も藤田の様子は気になっている。「僕はシニアメジャーしか行ったことがないから、帰ってきたら普段の試合の様子はどうなのか、いっぱい聞きたいです」。昨年は「全米プロシニア」、今年は全米プロシニアと「全米シニアオープン」に出場している。
宮本は次週のディフェンディング大会「福岡シニアオープン」と、2週後の「コスモヘルスカップ」に出場した後に渡米し、米シニアツアー(PGAツアー・チャンピオンズ)の来季の出場権をかけた予選会のファーストステージ(米フロリダ州、バックホーン・スプリングス、11月12~15日)に出場する。そこを通過して、ファイナルステージ(米アリゾナ州、TPCスコッツデール、12月3~6日)で5位以内に入ると、来季は米国で戦うことができる。
大会前は賞金ランキング3位につけていた宮本。この優勝でトップにいたチェ・ホソン(韓国)と、2位の片山を一気に抜いてトップに躍り出た。昨年に続く2年連続賞金王にも期待がかかるが「賞金王も頭の片隅くらいには置いておきますけど、アメリカのシニアツアーに行くことが今年も最大目標。それを目がけて一戦一戦やるだけです」と、視線は完全に海の向こうにある。最高の12月を迎えるために、足を止めずに走り続ける。