「日本一小柄なプロゴルファーだと思ってます」と身長156センチの冨田貴仁は胸を張った。「自分のゴルフはショットよりもアプローチとパター」というのが冨田のスタイルだ。
冨田は「雨なので、おとなしく無理せず」を心がけた第1ラウンドがスタートした。冷たい雨の降りしきる10番ホールからスタート。12番パー3でティーショットが隣のホールに流れてしまい大ピンチが訪れたが、グリーンを狙ったセカンドショットがピン80センチに寄ってパーセーブ。「なんとなく感触はいい」とゲームを進め、17番で5メートルを沈めると、18番ではセカンド125ヤードをピンに絡めて連続バーディ。難易度の高いインコースを、冷静に見定め後半につなぐことができていた。
ターン後の1番、2番は2.5メートルのきわどいパーパットを連続で決めたが、続く3番ではグリーン奥のバンカーから寄せきれずにボギー。4番では5メートルバーディパットを「がっついて狙いにいってしまった」と3パットと連続ボギーにしてしまう。
貯金も無くなった冨田は「原点に帰って謙虚にプレーをしよう」と気持ちを入れ替えて続く5番でバーディを取り返すと、8番パー3では15メートルほどのロングパットを仕留めてスコアを1つ伸ばすことに成功。終わってみれば、2アンダー2位と上位フィニッシュ。「自分の感覚が合ってきたのかもしれない」と優勝争いグループに入り込んだ。
元々ツアープロを目指していたという冨田。夢を叶えられなかったこともあって、活動拠点を神奈川から茨城に移してティーチングプロの資格を取得した。「つくばねCCにお世話になって20年。とても景色が美しいコースでゴルフの環境を用意していただいて、感謝しかありません」と振り返る。
月日が流れ50歳を過ぎてから、冨田は小柄な体格にアドバンテージを感じるようになった。それは、シニアとして味わう独特の感覚でもあったという。「今が一番ゴルフが上手だと感じているのです。知識と経験が合わさって、自分のゴルフを考えられるようになりましたね。知恵もあるのでミスが修正できるようになりました。ほんとうに遅ればせながらですが、自分の感覚が合ってきたような気がするのです」。だからこそ冨田は1次予選、2次予選と自分のゴルフを冷静に分析しながら、スコアを創り上げることを楽しんでいる。
「今、ゴルフが本当に楽しいですよ。ドライバーは8度ですが、自分の身体的な癖とか特徴を分析していって、ロフトを1度立てて、実際は7度のものを使っています。飛距離は260ヤードですが、ボールのスピン量と曲がりを想定しても、今のスペックが一番ゲームの組み立てがしやすい」と楽しんでいる理由を明かしてくれた。
所属するつくばねCCでは、レッスンも対応しているが、冨田が熱を入れているのが「初心者レッスン」だという。「ゴルフというスポーツは、練習場じゃなくて、ゴルフ場でゲームをするものだと思うのです。初心者の方に、景色がきれいなコースに感動してもらい、とにかく気持ちよくクラブを振って楽しんでもらうことがまず大事なことですよね。コースレッスンに関わっていると、改めてゴルフの醍醐味を味わうことができます」と冨田は初心者と常に目線を合わせることを意識しているという。
「初心者に対してもゴルフに完璧は無いですし、自分にも当てはまります。だから自分にはできるだけのことをして、ゴルフの質を上げたい。今は飛距離ではなくて、ショートゲームとパッティングに磨きを掛けながら、小柄なプロとして最大のパフォーマンスをみせられたいいです」。冨田は初の優勝争いに、嬉しさをかみしめていた様子。自称・日本一小柄なプロゴルファーは、全身全霊でこの争いに立ち向かうことを誓った。