レギュラー3勝の虎さんことシニアルーキー・崔虎星(チェ・ホソン)が日本シニアの公式戦で優勝を飾った。連日首位の完全優勝という結果は、強さを完全証明するものとなった。
虎さんの抱く日本への強い思いが、今回のナショナルオープンで見事に結実した。第1ラウンドでは64をマークし圧倒的な力の差を知らしめたが、第2ラウンドでは69とかろうじて首位の座をキープ。「残り2日は2アンダー、2アンダーで優勝します」と目標を定めた。
しかし決勝ラウンドに入ると、事態は思うように動かない。第3ラウンドはオーバーパーの73。貯金があったのでかろうじてトータル7アンダー首位グループに滑り込んだ。随所に後悔もあるが「明日は大丈夫、ファイトで乗り切ります」と最終ラウンドに向けてはポジティブに考えを持っていくようにした。一打の攻防になることはわかっていた。だからこそチャンスが巡ってくるまでじっとゲームを進めた。最終ラウンドのバックナインで、2連続バーディーを仕留めることに成功。流れを見定め果敢に挑んだ結果が優勝に繋がったのだった。
崔はこの大会で奥様のファンジナさんに帯同キャディーをお願いした。日本シニアツアーでは、プロの奥様が帯同キャディーをするケースがあるのだが、1組に1台カートが用意されることも多くキャディーは乗車も可能なことがある。ところが今回のナショナルオープンに限っては、毎日18ホールカート無しの歩きを強いられる。ファンジナさんも練習ラウンドから虎さんと一緒にゲームを進めた。暑さと強風の影響で、選手のプレーはペースダウン。虎さんは「暑すぎるから、思考回路がだんだんおかしくなってくる」というときでも、ファンジナさんはそばで虎さんの荒くなる気性をなだめ、リセットできるよう側に寄り添った。
優勝できた要因に虎さんは「心の平穏さ」を挙げた。「アスリートにとって体を動かす以外で心の平穏さが大切だと思うのです。妻の内助の功がなければ成り立たないというのはあります。妻は子供が小さい時は、同行するとは無かったんですけど、子どもたちもある程度大人になり、家族に預けてここに来られるようになりました。それと、日常生活で忘れやすいことが増えてきたので、後ろから拾ってくれたりと非常に助かっています」。プライベートでもビジネスの場でも、虎さんの行動を暖かく見守ってくれる優しいファンジナさん。通訳で困ったとき、虎さんは「奥さんお願い、奥さん」とすぐに助け船を求め、日本語が理解できるパートナーを頼りにすることも多いのだ。
「妻と一緒に二人三脚で一緒にプレーするようになって、まだ優勝したことがなかった。いつかケアしてくれる家族と一緒の時に優勝したいと思っていたのが、このような大きな大会で優勝でき感無量です」と嬉しさをにじませた。シニア入りしてからは、米チャンピオンズツアーにも挑戦。クオリファイングスクールでは最終ラウンドに進出。33位タイに終わり、アソシエイツメンバーの資格に2打足りずシード参戦は叶わなかったが、3月に米韓共催の「コロガードクラシック」に主催者推薦で出場。アメリカで虎さんは「フィッシャーマンズ スイング」と表現され、スイングの理にかなった型を持つ選手として名を轟かせている。
「人生を振り返ると多様なツアーに挑戦してきました。これからもそういう風に挑戦していくというスタンスです。挑戦とは多様なバックグランドをもった多様な選手と競争することで成長がもたらされると僕は信じています」と通訳を通して、日本シニアツアーへの参戦を語った。さらに「歴史の深い日本シニアオープンで優勝することができて感無量ですし光栄に思っています。それと、選手はボールを打つだけではないと思っています。コースをセッティングされている方、管理をされている方、ボランティアの皆様、スタッフの皆様など全ての努力の集大成で選手が輝く場になっていると思っています。まわりの関係者の皆様に改めて感謝の意を伝えたい」と目を輝かせた。
虎さんがナショナルオープンで優勝したことは、特徴あるスイングというだけではなく、周囲への気遣いと家族への慈愛に満ちた選手だということを知らしめてくれたのだった。