レジェンドが久々にトーナメントへ顔を出した。
レギュラー48勝を挙げている永久シードプレーヤー。シニアでは日本シニアオープン(05、06、08)3勝、日本プロシニア1勝を含む計5勝。日本オープン、日本シニアオープンの両タイトルを獲っている数少ない選手のひとりで、アマチュア時代から「日本」とつく大会は7冠を達成。2019年に日本プロゴルフ殿堂入りも果たしている「トミー」こと「中嶋常幸」だ。
トミーも今年で70歳を迎える。
長きに渡り中嶋のプレーを側で見てきた守谷キャディーが今回も相棒として指名された。65歳の国内最年長キャディーは、選手から厚い信頼を得ている。「ふたり合わせて135歳だなんて信じられないですよね」と笑みをこぼすが、残暑厳しい中での戦いは容易な仕事ではない。昨年のファンケルクラシックではこの中嶋・守谷ペアが出場したが、うだるような暑さで気力・体力を奪われてしまい、大会を棄権せざるを得なかった。今年のシニアツアーエントリーとしては一戦目。時期的な要素、そしてコンディション作りと不安もある中嶋だが、この大会に挑みたい理由がある。
実は中嶋の娘・佳乃さんがコースセッティングコミッティーとして大会のコースセッティングに関わっていること。ここで佳乃さんがJGAコミッティーに関わった経緯に触れておこう。かつては競技ゴルファーとして、日本女子オープンにも出場(2001年)し、父・常幸が娘のキャディーを務めたこともあるという。女子オープンは予選落ち。一度は競技人生を終える決断をし、結婚出産を経て気付けは30歳後半を迎えていた。
子育てもひと段落したころ、アマチュアの試合へ再び参加するようになった。日本女子ミッドアマチュアゴルフ選手権にも出場を重ねていくうちに、関係者から「オープン競技の仕事に興味はないか」と声をかけられた。はじめは「大きな責任を負う」と感じていたが、普段は多くを語らない父が「やってみれば」と背中を教えてくれたという。佳乃さんは「父は試合ひとつひとつ、命がけで取り組んでいました。そんな後ろ姿をいつもみてきたこともあり責任の重さもあると思ったのですが、だからこそ私がやらないといけないというか、やってみたい、知りたいに気持ちが変わったのです」ときっかけを話してくれた。
父・常幸はプロゴルファーとしてトーナメントに向き合う姿を家族に見せていたからこそこうして娘へとゴルフの魅力が受け継がれていく。「昨年能登で開催したシニアオープンからコースセッティングに携わらせていただきました。まだ見習いという立場なのですが、JGA競技は昔から厳しいセッティングですし、深いラフひとつとっても、選手にとって忍耐とか諦めない姿を映し出し、ファンに伝えるものだと思います。試合は生きています。そんなお手伝いをさせていただけるだなんて、ほんと幸せです」と微笑んだ。そして「父の出場する試合でコースセッティングに携わらせていただく日が来るなんて嬉しいですね。精一杯のプレーを見せてもらいたいです」と、父にそっとエールを送った。
中嶋にとっては昨年欠場を余儀なくされた大会だっただけに、今年はシニアオープンへの大会出場に向けて気持ちを高めてきた。「娘との約束みたいなものです」と家族の絆もある。「そしてJGAが100年という記念の節目ですし、娘にも出てほしいと嬉しい言葉もありました。目標としては90を打たないこと(笑)。80台では回りたいかな。とにかく自分に多くを求めず、参加することも大事かなと思っています。娘はきっとピンポジションに携わっているんでしょうね」と口元を引き締める。
持病のリュウマチにも悩まされる中で、中嶋はなんとかプレーを楽しみたいという思いでここまでやってきた。「明日のペアリングは気の置けない仲間との組み合わせなんだけど(加瀬、宮瀬)、地元千葉だし、見に来なくていいよって言ってても、色々見に来てくれちゃうんだろうな」と苦笑い。中嶋自身の挑戦と家族の愛が詰まったシニアオープンの戦いに注目したい。