富士カントリークラブ可児クラブ可児ゴルフ場志野コースで「第91回日本プロゴルフ選手権大会」の最終ラウンドが7日行われた。最終組の杉浦悠太と蟬川泰果は2打差でスタート。上位にスコアが密集する大混戦。ラスト3ホールでは2人の攻防戦が繰り広げられたが、最終18ホールをボギーとしながらも杉浦悠太が初日からの首位を守り完全優勝を達成した。日本プロ初出場でプロ初優勝を飾ったのは史上5人目の快挙。優勝賞金3000万円と5年のシード権を獲得した。1打差2位には蟬川泰果と、5つスコアを伸ばして猛チャージした稲森佑貴が入った。
日本最古のプロトーナメントで、プロゴルファー日本一を決める「日本プロ」最終ラウンドの会場は、朝からゴルフファンの熱気と高気圧に覆われ、かなりの高温が予想された。駆けつけた大勢のギャラリーは、完全優勝に王手をかけた杉浦悠太と、日本タイトル3つ目を狙う蟬川泰果の最終組に注目が集まった。第3ラウンドに続き、同組でプレーする杉浦と蟬川の間には緊張した空気が漂い、激しい優勝争いの火花が切られた。
大勢のギャラリーに囲まれた1番スタートホール。蟬川はボギーにしてスコアが動いたが、2、3番ホールで連続バーディを奪取。杉浦は負けじと2番で4メートルを流し込んでバーディーとし、スタート時との2打差をキープする。7番で両者ボギー、8番では蟬川、9番は杉浦がボギーとスコアを落とし、2人の打差はなかなか縮まらない。
しかし杉浦にとって9番のボギーは、自分の状態を確かめられた「良いボギー」だった。「今日はずっとパターが打ち切れていなかったので、上り10メートルのパットをそこまで打ち切れたことは収穫でした」と述懐し、ここでギアを入れ替えていた。
サンデーバックナインに入ると、ギラギラした刺すような陽ざしと芝からの照り返しがさらに強くなる。2人は緊張感の中で集中力を高めていった。10番で蟬川が渾身のバーディーを決め、杉浦に1打差と迫る。12番パー5は両者バーディーと譲らない。いつ逆転するかされるかわからない1打差。ゲームはクライマックスに向かいラスト3ホールへと突入する。
16番で蟬川が打った1.5メートルのパーパットはカップ右ふちをかすめまさかのボギーに。2打差がついた。17番はティーショットを刻むか攻めるか選択が難しいパー5。スコアを伸ばせるチャンスホールで、2つのボールはグリーンオン。距離のあるイーグルパットをきちんと寄せて両者バーディーと妥協は見せない。逃げる杉浦、追いかける蟬川の差は2打差で最終ホールへ。
最終18番パー4は大会期間中の平均ストロークが4.2688と最も難しいホール。杉浦のティーショットは左バンカーに捕まったが、蟬川はティーショットをフェアウェイセンターに置いた。杉浦はバンカーショットの状況をみて「ボギーでもしょうがない」と覚悟した。当然プレーオフの可能性も否定できない。
蟬川のセカンドはピンまで上り150ヤードの距離が残った。杉浦のボールがバンカーに入ったをみて「ワンちゃんあるな」と睨んでいた。風は左からのアゲンストと読み9番アイアンを選択。ボールはグリーンを捉えたがバーディーパットはピンまで10メートルを残した。
一方、杉浦のボールはクロスバンカーのあご近くで止まり、グリーンを狙えない難しい位置。刻んだセカンドショットは右ラフに入ってしまった。ピンまで残り80ヤード。杉浦のサードショットはグリーンを捉えたがベログリーンの形状に沿ってボールはグリーンからこぼれ落ちた。杉浦は「ダブルボギーだけは絶対ダメだ」と次の手を考えた。ピンまでは12ヤード。練習ラウンドでも短く芝を刈ったエリア(‘いわゆる花道)からウェッジを使ってミスが多かったことも頭をよぎり、ピンチの場面だったがパターを選択した。グリーン外からのパッティングはピンに向かって転がったが、カップには50センチ届かなかった。ボギーパットを残して、蟬川のバーディートライを待った。
蟬川が決めればプレーオフの長いバーディーパット。ボールはゆっくりと転がり、カップ右横の30センチにピタリと止まった。最後まで蟬川は集中力を研ぎ澄まし、抜群のタッチ力を魅せたが、優勝には届かなかった。「耐えてくれたら入る」という願いは叶わなかった。
杉浦は50センチのウィニングパットを沈めると、地元愛知から駆けつけてくれた応援団はじめ、最後まで残ったギャラリーからたくさん声援と拍手が送られた。グリーン上では帯同キャディーの高田さんとハグをし、初出場初優勝という快挙を称え合った。4日間の完全優勝は、プロ転向後12試合目の最短優勝とは思えない強さが光り、昨年の日本プロで勝った平田憲聖以来のツアー完全優勝を達成した。
2023年「ダンロップフェニックス」で史上7人目のアマチュア優勝を飾り、大会最終日のアテスト後にプロ転向を表明。今季はこれまで10戦中トップ10入りが6度と強さが光り、今回の優勝で賞金ランキング2位と順位を上げた。
「プロになってから早く1勝できるといいねと言われ続けていたので、ほっとしています。長い一日でしたが、一勝目がメジャー優勝で、ほんとうに嬉しいです」とようやく笑顔が広がった。「4日間体力が持つかどうかでしたし、苦しい状況でも『悠太ならいけるぞ!』とか「ナイスバーディー!」と声をかけてくれて、ひとりじゃないなという気持ちになりました。ギャラリーの応援が暑さも忘れさせてくれましたし、力になりました」。常に感謝を忘れずに、支えてくれる人の思いを受けて返すプロフェッショナル。最終日は、地元愛知から「杉浦悠太、目指せ!賞金王」と書かれたウチワと横断幕やのぼりを掲げ、同じユニフォームを来た20名近くの応援団が18ホールを見守り、一緒に戦ってくれた。
杉浦は2年前のグランフィールズで堀川未来夢が日本プロで優勝を飾ったシーンに立ち会っていた。チャンピオンの堀川は、応援に駆け付けた日大の後輩たちと一緒に記念写真を撮ってくれた。「優勝争いの中でしっかりと勝ち切った姿を見ていたので、本当にかっこいいなと。その時には自分がこの大会で優勝することは描いていなかったですし、先輩と同じタイトルを獲れて本当に嬉しいです」。大会期間中も日大の先輩や同期の仲間に励まされたことで、4日間を勝ち切った。
プロ1年目の杉浦は「今年の目標は賞金王」と誓いを立てて、ファンと一緒にシーズンを戦い抜くと言った。今年の日本プロは、気温も試合展開も“あつい”初夏の富士可児だった。