昨年10月に行われた「PGAティーチングプロ選手権」では当時52歳の大木昌幸が寺澤宜紘とのプレーオフを制して最年長優勝を飾り、本大会への出場権を獲得した。ティーチングプロ選手権は、レギュラー、シニア、グランド、ゴールドの4部門があるが、大木は50歳以上ということもありシニアの部を選択することも可能。それでもレギュラー世代と戦うことには意義がある。ティーチングプロにとっては、一年に一度の選手権。過去3度(伊勢、静ヒルズ、矢吹)最終日最終組で戦った経験もあるので「年々うまくなっている気はしていました。若い選手には飛距離で差をつけられますが、自分の身体に見合った効率の良いシンプルなスイングができている」という実感があるので、レギュラーの部でも「まだやれる」と自身を鼓舞することのできる大会だ。
日本プロ出場が決まってから8か月の月日が経ち、7月4日の午後12時15分に念願だったレギュラーツアーの舞台で大木はティーショットを放った。気負わず、リラックスしていたつもりだった。自分なりに万全を期して挑戦するはずだった。ところが10番から3連続ボギーと苦しい展開のスタートになってしまった。「縦距離を意識してしまったのがいけなかったのかな。どれもつまらないボギーでした。フェアウェイには置けていたのにボギー。そうですね、アドレナリンが出たのかもしれませんね。次のホールでは飛んじゃってボギー。その次は絶対に落としてはいけない右に落として、それでもボギー。できてなかったです。落ち着いているつもりなんだけど、何故かね、なかなかやらせてくれなかった」と肩を落とした。
その後も繰り返されるパーとボギーで順位はどんどん落ちていく。17ホールを終えて9つのボギー印がリーダーズボードに並んでしまったが、大木はここで決心する。これまでキャディのアドバイスを参考にゲームを進めていたが「自分の判断でやってみよう」と。
最終アウト9番ホールのティーショットはグリーンまでの残り220ヤード地点のラフへ流れたが、得意クラブのユーティリティー5番を手にグリーンを狙う決断を下した。するとボールはグリーン手前にランディングしてピンまで1.5メートルの距離で止まったのだ。慎重にラインを読み、丁寧なパッティングで最終ホールはバーディ奪取に成功。スコアは79だったが「デビュー戦で70台をマークできました」と前を向いた。ようやく緊張から解放された。
パー3ホールではホールインワンに近いバーディーチャンスもあったが、スコアにはつながらなかった。「フックラインに見えるけど、右に出したらいけるかなと思い悩んだ結果打てないとか迷いがありました」と反省もあるが、「明日のラウンドでは、もうちょっと自分のことを信じてやってみようと思います。読みが甘いのかな。妻と娘が応援に駆けつけてくれているのでね、信念で自分のゴルフをやります」と表情は明るい。
53歳のティーチングプロにとって、レギュラーツアーデビュー戦初日はほろ苦い結果ではあったが、やるべきことをしっかりと見据えていた。144名それぞれが全力を尽くすべき理由がある日本最古のプロトーナメントは、どの切り口からでも人間的な魅力が詰まっている。