シニアツアー第2戦「すまいーだカップシニアゴルフトーナメント」の最終ラウンドがイーストウッドカントリークラブで行われ、最終ラウンド12アンダー首位からスタートした片山晋呉(51)が、スコアを3つ伸ばして通算15アンダーとし、8つスコアを伸ばし猛追したタワン・ウィラチャン(57)を1差で振り切ってシニア初優勝を飾った。優勝賞金1000万円を獲得。2戦を終えて賞金ランキングも1位に立った。
10番パー3で8メートルのバーディパットを沈めたとき、誰もが片山晋呉が勝つと思った。今日4つ目のバーディでトータル16アンダーまで伸ばし、後続との差が4打に開いたからだ。しかし、シニアツアー初優勝は簡単ではなかった。
13番パー4ではティショットを左の林に打ち込み、2打目は真っすぐグリーンは狙えない。7番アイアンでグリーン手前まで運ぼうとしたボールは、片山が想定していなかった木に当たり、3オン2パット。ついに今大会初めてボギーを叩いた。
そして、バーディが欲しい15番パー5ではティショットが左のフェアウェイバンカーへ。「あそこに行った時点で、かなり確率は低くなる」。3打目勝負で2メートルほどのバーディチャンスは決めることができず。「13番くらいから力が入らない。急にダフるようになった」と、体に異変も感じていた。
タワン・ウィラチャン(タイ)が連続バーディで締めて、先にトータル14アンダーでホールアウト。片山はトータル15アンダーと、1打のリードを持って最終18番パー5を迎えた。初日、2日目と同じように、片山はティショットでフェアウェイウッドを握り、3打目勝負を選択。しかし、そのティショットはまさかのテンプラ気味の当たりで、距離を稼ぐことができなかった。
2打目でレイアップして、3打目は残り135ヤード。きょうのピンは左の池のすぐ上に切ってある。その状況で打った片山のショットはピン方向に飛んで、奥3メートルについた。「全然ピンを狙ってない。(もっと右の)テレビ塔を狙っていました」。それをしっかり2パットで沈め、シニアツアー参戦2年目にしてようやく初優勝をつかんだ。片山は昨年6月の「スターツシニアゴルフトーナメント」でシニアデビュー。2週間後のその大会でちょうど一年となるタイミングだった。
「僕はいろんなことに慣れないと行けないから、時間がかかるんですよ。もうちょっと早く勝てるかと思ったけど勝てなかった」。レギュラーツアーで31勝を挙げて、永久シードを持つ片山が、シニアで勝つまでに11試合を要した。この“ちょうど一年”に片山は大きな意味を持たせていた。「次のスターツで1年経っちゃうので、それがすごく嫌だった。今週は最初から狙っていました。遅いけど“1年以内”は自分の中で合格なんです」。今年のスターツシニアの前にあるのは今大会だけ。今週は誰よりも勝ちにこだわり、ついに手に入れた勝利だった。
そして、本人には狙って勝てた実感がある。「初日からこのショットの感じだったら、パットが入れば勝てるだろうなと思ってやっていました」。最終日のバックナインこそ、ショットが乱れる場面があったが、その前の45ホールは高精度のショットを放ち続けた。
優勝争いのとき、リーダーボードを一切見ないで「自分との戦い」と語る選手もいれば、自分の順位を常に確認しながら「相手との戦い」という選手もいる。片山は完全に後者だ。「ぶっちぎろうとか、カッコよく勝とうとかは全然思ってない。全員よりも1打でも勝てば良いという思いでやっている」と言い切る。転機となったのは2006年の「ダンロップフェニックス」でタイガー・ウッズ(米国)と最終日最終組で回ったことだった。
「タイガーは並ばれるまで絶対にピンを狙わない。超安全にプレーしている。グリーン真ん中に打って2パット、長いのが入ったらラッキーくらいでしかやっていない。それがハリントンが並んだ瞬間から、残り3ホールくらいは全部ピンを狙ったの。あれを目の当たりにしたから僕も絶対にピンを狙わないって決めている。今日も前半は基本的にピンを狙っていない」。
日本人でタイガーとの最終日最終組を経験しているのは、片山と05年のダンロップフェニックスでの横尾要くらいかもしれない。メディアではタイガーがぶっちぎりで勝っているシーンが取り上げられ印象に残りがちだが、「全然違う。超硬い」。実際に優勝争いの中で一緒に回った片山の感想はまったく逆なのだ。
さらに片山は続ける。「相手が墓穴を掘るのをタイガーはずっと待っている。『俺が行かなきゃ』って相手に思わせた方が勝ちっていうのをすごい学んだ。ゴルフって行こうと思って行って成功する確率は低いからね。だから僕も優勝争いをしたら、相手を嫌にさせるって決めているんですよ。あれからさらに勝ち星が多くなりました」。実際、片山が積み上げてきたレギュラーツアー31勝のうち、10勝は“タイガーとの最終日最終組”以降に挙げている。
2週後に行われるスターツシニアの会場はスターツ笠間ゴルフ倶楽部で、茨城県出身の片山にとっては地元大会となる。この優勝で1000万円を加算して、賞金ランキングトップに立ったが、来年の海外シニアメジャーの出場権が得られる賞金ランキング4位以内に入るためには、もっと勝ち星を増やしたいところ。片山は「次も勝ちたいですよ。そうしたらインタビューは茨城県でしゃべれるから」とニヤリと笑う。今季のシニアツアーは片山が席巻するかもしれない。そう感じさせる優勝インタビューだった。