井戸木鴻樹(59)が、9アンダー63をマークし、通算10アンダー134で前日28位から27人抜きの大逆転優勝を果たした。3番から4連続バーディーで波に乗り、9バーディー、ボギーなし。2013年全米プロシニア以来、日本シニアツアーでは2012年富士フイルムシニア以来の優勝となった。3打差の2位には、高橋勝成(70)ら6人が並んだ。スーパーシニアの部は8アンダーで福沢孝秋(68)が制した。ゴルフトーナメントでは初めてプロレスとの融合で、ホールアウト後は特設リングで繰り広げられた男女のプロレスや、長州力、武藤敬司、蝶野正洋と主催者の半田晴久・国際スポーツ振興協会(ISPS)会長によるトークバトルなどで、プロやギャラリーを楽しませた。
「予感」が的中した。
第1ラウンド28位、首位に6打差の井戸木が快進撃をみせる。3番で4メートルを沈めた。ここから4連続バーディー。後半に入っても勢いは続く。11番パー5で第1打を左の土手に打ち込んだが、第3打で2メートルにつけ、12番では5メートルを入れて連続バーディー。7アンダーとして優勝戦線に浮上する。
終盤の怒涛の攻め。15、16番で4メートル、17番では8メートルを沈めてこの日9アンダー、通算10アンダーでホールアウトした。まだ最終組が上がるまで1時間以上ある。「どうなるのか、終わってみたら5位とか(笑い)。プレーオフの覚悟もしながら待っていた」。終盤になって井戸木のスコアが上位に伝わる。そこからみんな、伸びなくなった。数字のプレッシャー。最終組では通算9アンダーで追っていた清水が、18番ティーショットを池に入れ、終わってみれば大逆転勝利だった。
長くて、欲しかった「優勝」だった。2013年全米プロシニアを制して、周囲の状況も、自身の気持ちも変わった。重荷になったのだろうか?「めちゃくちゃ、ありましたね。全米に勝ったのがまぐれと言われたくなかったし、早く優勝しなきゃという気持ちもあった」。そんな意気込みが、逆にパッティングに影響した。ロングパットは簡単に3パットする。1メートルぐらいのパットが入らない。
けがにも泣いた。全米に勝ったすぐ後から右肩を痛めた。それが影響して左肩も痛めた。左手首、左手親指付け根と次々に痛みがでて、スイングにも悪影響が出た。フェアウエーを外さないという持ち味も「シニアに入ったころはよかったけど、若い選手が入ってきて、飛ばさないといけないと思って」と力み、勝負どころで大きく曲げるシーンが何度もあった。
前の試合、スターツシニア(6月11~13日)で室田淳と回った。「室田さんのパッティングの真似をしようと思った。あのリズムとボールの転がり。室田さんをイメージしたパッティングに変えた」と、パターも同じ中尺にした。
スイングもスターツ後に変えた。テレビで先週資生堂レディスに勝った鈴木愛のスイングを見て「真似しようと。今まで手で振っていて、ケガにつながっていた。体全体で振るのを真似しようとね」。今大会前にやってみると、方向性も飛距離も出るようになった。
2人の選手を真似する「大イメージチェンジ」(井戸木)をして、大会前の突貫工事で試合に臨んだ。第1ラウンドは「まだこわごわだった」と、1アンダーとスコアは出なかった。それでもホールアウト後、「これがものにできたらいけると思う」といい「最終日は63ぐらい出す」とつぶやいた。今にして思えば、何か確信があったのだろうか?「いい感じだったんで、ほんとに予感はあったんですよ」。そう言って笑った。
2013年全米プロシニア優勝直後、帰国してすぐにISPSの試合に出場。それに喜んだ半田会長に声をかけられて、以来ISPSのインターナショナル・アンバサダーを務めている。ホストプロの立場での大会で、8年ぶりの優勝、日本シニアツアーでは9年ぶり2勝目を飾った。やっと恩返しした形だ。
「悩みはこの優勝を自信にして、解消できそうな感じですわ。気を抜かず、この流れを持続していきたい。まだまだ若い者には負けませんよ」。今年は60歳と節目を迎えるドッキー。「一から出直そう」と、スイングもパッティングも変えた決断が、すぐに実を結んだ。
(オフィシャルライター・赤坂厚)