攻めるゴルフに徹したならバーディーという褒美をくれる。そんなに生易しいコースではない。第1ラウンドで1アンダーフィニッシュができたものの、第2、第3ラウンドともに7オーバーと叩きのめされた経験から、そのことは十分過ぎるほど分かっている。
通算13オーバー・89位タイで迎えた最終ラウンド。アンダーパースコアをマークしない限り、合格は出来ない順位。岩坂穣一郎選手(25歳・大隅CC)はスタート前に誓った。「目の前の一打にベストを尽くし、悔いを残さないように自分が持てる力をすべて出し切ろう」。
インコース10番パー4ホールからのティーオフ。誓いどおりにプレーしたつもりだった。だが第2、第3ラウンド同様にこのホールでまたしてもボギーを叩く最悪のスタートとなった。「今日も駄目か…」。ボヤキが出る始末。次のホールへ向かうインターバルで気持ちを切り替えられた。「まだ残り17ホールもある。スコアは計算せず、目の前の一打に集中だ」。これまでの3ラウンドでのインコースのスコアは38・40・41だったが、最終ラウンドは耐えに耐えて37で回れた。
ハーフターン後の1番パー5ホールでは耐え忍んで来たご褒美と思えるバーディーパットが決まった。その距離6メートル。ショットのリズムが良くなり、2番ホールでは2メートルに着けたパーオンショットを一発で沈めた。
岩坂選手にとっての最終ホール9番パー5。スコアを一つ伸ばして来たことで、気持ちは強くなっていた。ツーオンしてみせる。その思いどおり、2打でグリーンを捕らえたが、イーグルパットは入らず、3メートルのバーディーパットを残した。17ホールをプレーし、ピン位置がシビアだったことから、合格ラインは下がっていることを感じていた。
「このパットを沈めたら合格するはずだ!」。
上りのフックライン。カップを1個半外して打てば入る。ショートだけはしない。悔いが残る。カップに届かせるしかない。
岩坂選手はカップオーバーのパットをイメージしながら大きな振り幅の素振りを何度も繰り返してから構えた。「素振りとは程遠く、ストロークが小さく、インパクトも緩んでしまいました」。ボールはラインに乗ったものの転がりの勢いからしてショートしそうだった。「届いてくれ!入ってくれ!」。ボールは最後のひと転がりでカップに消えた。バーディー。3バーディー・1ボギー70、通算11アンダーでフィニッシュ。同伴競技者たちから「がんばったね」「きっと合格だよ」と手を差し伸べられた瞬間、涙が流れ落ちた。スコアカード提出所前で待ち受けていた大学ゴルフ部の同級生が「合格圏内に入ったよ、よかったな、おめでとう」と祝福の声を掛けると、岩坂選手は思い切り涙を流した。
落ち着きを取り戻してから、こう漏らした。「緊張で朝飯を食べられませんでした」。今宵は、たらふく御飯を食べ、喜びを噛みしめる。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)