見ごたえある「ムービング・サタデー」でも、こんなサタデーはめったにない。3日目の最終組を見たギャラリー、テレビでライブ放送を見たゴルフファンは、ラッキーだ。
序盤、宋、谷原に6打差をつけたスタートした武藤が「バタバタとやらなくてもいいミスを大量にしまして、正直つらかったです」と振り返るように、4番までに3ボギー。5番でようやく初バーディーを奪ったが、前半で2つスコアを落とした武藤に対して、宋が1つ、谷原が2つ伸ばして、3打差で後半に突入した。「前半はのほほーんとしていたのに、勝手に追いついてきて、それを縮められたらいいなと思った」と谷原。いわば、武藤が自滅の形で降りてきてくれた。武藤は「昨日アルバトロスで大騒ぎになって。でも、倉本会長から『私の想定よりスコアが3打いいのは、アルバトロスの分』と言っていたのを思い出して、元に戻っただけと思うようにした」。気持ちの切り替えはうまくいった。
ここからが「プロの意地と技」の連続だった。
宋永漢
まず宋が10、12番でバーディーを奪う。谷原も11、12番連続バーディーでついていく。尻に火がついた武藤も12番で4メートルを入れて「スイッチが入った」と2打差を死守。
14番で谷原が「ラフだけどライが良かった。やや上りでチャンスだなと思った」という9ヤードのアプローチをチップインバーディー。この時でついに1打差に迫った。それを見た武藤。右5メートルを入れ返す。
15番ではまた谷原がバーディーで1打差、宋が4メートルを入れて2打差。上がり3ホールに入った。
16番パー5.2メートルにつけた谷原が咲きにバーディーを奪って通算13アンダー。一瞬、武藤に並んだが、1メートルを入れ返した武藤がまた1打突き放す。こうなると「ギャラリーからは『ナイスバーディー』しか出なくなったよね」と谷原は笑う。
武藤俊憲
17番パー3、今度は宋が1メートルにつけるファインショット。武藤は2メートルを先に入れ、差を保つ。残り1ホールで武藤15アンダー、谷原13アンダー、宋12アンダー。
最終ホールまでせめぎあいが続く。
「顔を上げたらラインに乗っていた」というカラーから7メートルを放り込んだ武藤はガッツポーズまで飛び出した。歓声の中、宋は「周りのことはあまり気にしないで、しっかり自分を信じて打った」と6メートルを決めた。
おなかいっぱいの後半インでのバーディー合戦は、3人とも5バーディーずつを積み重ね、武藤は通算16アンダー、谷原、宋が13アンダーに伸ばした。相手に負けたくない気持ちが前面に出ると、こんな激しい展開になることをあらためて知らされた。
激闘を終えた3人。
谷原秀人
(武藤) 正直、おもしろかったですよ。2人ともいいプレーをしていたんで、1人だけグズグズしてもしょうがないし。チャンスがくるのを待って、11番で(バーディパットが)手前に止まって打てていないと気づいた。12番から強く打ったら入った。あのへんからスイッチが入りましたね。リードはいくつあってもいいと思ってやっていました。
(谷原) おもしろかった? そりゃ、そうでしょうね(笑い)。やっぱり、やっているほうも楽しいですよ。ギャラリーの方々にもいいプレーを見せられて、本当に最高ですよ。負けたくないという気持ちが出ていますし。今日は何でこんないいスコアが伸びたんでしょうね。ハン・リーにしても、藤本にしても。
(宋) 前半は伸び悩んで、慣れるまで伸ばせなかったイメージがあったんですけど、後半は淡々とフェアウエーに行って、淡々とした流れで3人ともプレーすることができたのではないかと思います。
宋永漢
最終日も同じ3人が最終組で戦う。
(谷原) 差は半分になったんで。いいショット、いいパットが決まれば(2週連続優勝の)チャンスはあるんじゃないですか。フェアウエーから、というのを最優先にします。
(宋) 日本のトッププレーヤーと最終組で回れるので、まず学びたい。その中で自分できる最善を尽くしたい。
結局、アルバトロス分の貯金になった武藤。完全優勝に王手をかけた。
(武藤) とにかくたくさんバーディーを取ること。今日のを見たら分かるでしょ。差なんてないです。差がいくつあっても安心できない。一番早いのは5つ、6つ取ること。今日の出だしのバタバタはいい意味で(最終日の)予行演習になったかな。後半を見てもらって分かるように調子はいいんです。
誰が勝っても日本タイトル初制覇。最終日もこんな激戦になれば楽しい。
(オフィシャルライター・赤坂厚)