「年寄りの使命」だと、室田は言う。
13、14番連続バーディーで馬群を抜け出して通算15アンダーにスコアを伸ばし、これまでの室田ならそのまま楽に逃げ切ってしまうところ。それが、今回はうまく進まなかった。15番では第3打でシャンクして1・5メートルのボギーパットを何とかねじ込んだ。その時点で、シニアルーキーの鈴木が通算13アンダーでフィニッシュしていた。1打差に迫られていた。
「ルーキーに簡単に勝たせるわけにはいかない」。 それが室田にとって「使命」なのだという。
ルーキーは会心のゴルフをした。ホールアウト直後、鈴木は「ストレスがたまるゴルフでした」と話したが、顔は笑っていた。1番パー5で2オンしてバーディー発進すると、3番で5メートル、4番で「ホールインワンしかけた」とOKについた。5番4メートル、6番3メートルと4連続バーディー。ストレスを感じたのは7番パー5で第3打をミスしてボギーにしてからチャンスをことごとく外したこと。それでも、持ち直して15番バーディー後、17番3メートル、最終18番では1・5メートルを沈めてガッツポーズ。気分よく上がった。
レギュラー時代は「ボンバー」のあだ名の通り、最終日の爆発力には定評があった。この日65。通算13アンダーでホールアウト。その時点で室田は14アンダーだった。「優勝は14アンダーと予想していた。そこに行けなかった自分がいけなかった」と話していたが、プレーオフに備えて「アイドリングはしていきます」と、体を動かしていた。アイドリングが、プレーオフへの本格準備に「格上げ」していったのが、室田の17番のプレーだった。
室田は「新人に簡単には勝たせないと思ったけど、こっちが新人みたいにガチガチだったね」と苦笑いする。17番(Par5)でフェアウエーからの第2打を「ボールってあんなに曲がるもんだとは」と振り返るほどのフックで左の林に飛び込み、前に抜けたものの土手の斜面でライは悪く、強い前下がり。「サンドウエッジだと行かないと思ってピッチングでグリーンオーバーしてもいいと思って打った」のが幸いして、グリーン右奥まで転がって行ったが、そこからアプローチを2メートルに寄せた。クラブハウスで観戦していた他の選手が「これが入ったら勝ちだな」とささやき合っていたパーパット。「意地だね」。真ん中から沈めた。大きなパーセーブだった。
室田が1打差で、なんとか逃げ切った。練習グリーンでプレーオフに備えていた鈴木も、18番第2打で3メートルにオンした時点で勝負あり。「ナイスプレー」とたたえた。初優勝は逃したが「いい大会になりました」と、満足そうな表情を見せた。
この1勝で、シニアツアー通算17勝となった。金井清一に並ぶシニア最多勝。「実感はない。それより、自分のゴルフを何とかしようと思っているから」という。春先にドロー系からストレート系に球筋を変えたが、レギュラーツアーで若い選手に置いて行かれるため「またいじり始めたら変になってしまった」と、不調に陥った。「そこでレギュラーツアーに見切りをつけたのがよかったのかもしれない。距離を求めずに無理しない。それが8月に入って好成績につながったと思う」という。ファンケルで今季初勝利を挙げて、すぐに2勝目。「シニアの鉄人」が息を吹き返した?「いやいや、もうだめ。今回は15番までカートに乗れたからできたと思う」という。カートが認められている大会でも、室田はこれまで常に歩いて回ってきた。「(乗るのは)初めてじゃないかな。楽なほうへ行っちゃうとだめだね」と笑う。
賞金ランクの話になると、またも同じセリフが出た。2882万円で賞金ランク2位、首位崎山に約180万円差に迫った。「崎山をドキドキさせなくちゃ。そう簡単には賞金王は取らせんぞって。これも年寄りの使命だから。鈴木にも崎山にも、もっと強くなってほしいからね」。
シニアの若手にとって、こんな「鉄人」の存在はありがたいことだ。
(オフィシャルライター・赤坂厚)