「9番と10番ホールのパー5でバーディーを取ると(ゴルフの)流れが良くなる。その通りバーディー奪取が出来たし、11番ホールでもバーディーパットが決まってスコアを伸ばせたからね」
前年大会覇者として、全米シニアオープンから帰国したその足で出場した室田淳。試合を制する戦術は、十分に心得ていたのだ。
大会初日は、時差ボケや疲労を考慮して手堅く、丁寧なゴルフに徹した。2バーディー・1ボギー71の19位タイ。あまりのバーディーの少なさに2日目からは開き直ってコースを攻めた。その結果は1イーグル・5バーディー・1ダブルボギーの67。通算6アンダーまでスコアを伸ばし、一気に首位タイにジャンプアップし、室田は「定位置」の最終日最終組の座に就いたのだった。
迎えた最終日はスタート早々にバーディーを奪い、同組の久保勝美、冨永浩にプレッシャーを掛ける。その後も順調にスコアを伸ばし、9番パー5ホールで構想通りにバーディーを奪ってハーフターン。10、11番ホールでもバーディーパットを沈めて通算11アンダーとし、後続に3打差を着けた。この時点では首位独走態勢を固めたように思えた。
「手が動かなくなり、体の右サイドが前に出てしまうパットの悪い癖が出てしまった」と室田が振り返ったのは14番ホールの1メートルパーパット。カップインできずにボギー。それが引き金になったかのように15、16番ホールもボギーとし、3打差の貯金はなくなり、通算8アンダーで首位の座を久保、冨永と分け合う形になってしまった。
首位タイのまま迎えた最終日最終ホールのパー5。室田はピン左手前7メートルに見事ツーオン。首位タイの久保が3打目の寄せを外した後、室田は優勝を決めるイーグルパットに臨み、それねじ込んで右手拳を天に向かって突き上げ、渾身のガッツポーズ。
「シニアツアーは最終ホールでイーグルパットを決めて優勝が決まることが意外と多いじゃないですか。僕もいつかは、そんなパットを決めて勝ちたかった。その思いが叶うとは」
今季もレギュラーツアーに参戦し、世界メジャーにも精力的に出場し、世界メジャー出場回数は区切りの良い20回目を数えた。しかし、思うような成績を残せず、レギュラーツアーでは「ティーショットで50ヤードも置いて行かれる」辛さが身に染みた。例年スイングを微調整し、ツアーに臨み、シニア賞金王4回、シニアツアー通算16勝を飾って来たが、今季はその微調整に失敗し、ショットが左に曲がってしまうことが少なくなかった。それが不調に要因だった。
思うような成績を残せないことを振り払うため、妻と娘が気遣って家族旅行に誘ってくれた。長野県の武田神社、上田城、善光寺を巡り、気分をリフレッシュした後、全米シニアオープンのために渡米。そして帰国第1戦めとなる本大会で復活Vを遂げたのだった。「今年は勝てないかも知れないと思っていたけれど、こうして優勝したことで(5回目のシニア賞金王)チャンスも出来た。シニアツアーを盛り上げるためにも頑張りますよ」
キングオブシニアが目を覚ました。そう思わせるイーグルパット奪取と歓喜のガッツポーズ。復活した室田がシニアツアーを一段と面白くしてくれる!