すでにマークセンと尾崎直道が、6アンダーでホールアウトしている。崎山武志は、この時点で5アンダー。少なくともバーディでホールアウトして、プレーオフに加わりたいところだろう、とギャラリーも仲間のプロたちも想像していた。574ヤード、パー5。崎山は、自分が1打ビハインドだということは、当然、知っていた。「なんとか追いつきたいという気持ちでした」と言った。ティショットは、会心ではなかったけれど十分、許容範囲のフェアウエイ。そこからスプーンを取り出した。この日のピンの位置は、前日とは真逆で、グリーン左サイド。左から6ヤード、手前から22ヤード。しかしその手前にはバンカーがあり、さらに春望湖と呼ばれる大きな池が待ち受けている。2オンを狙うには、勇気と決断とショットの自信が必要だ。崎山は、もちろん果敢に2オン狙い。ボールが、グリーン右サイドに乗ってきたときには、ギャラリーからウオーという歓声があがった。
マークセンと直道は、崎山のプレーを待っていた。プレーオフの確率が高いからだ。それも、2人のプレーオフから、3人のプレーオフになるかどうかという「読み」が圧倒的だった。
崎山が、同じ最終組の加瀬秀樹、溝口英二とグリーン上にあがってきた。溝口が右サイドのエッジから打った。次に遠いのが、崎山だった。崎山の言葉を借りれば「15~20歩ぐらい」の距離だった。構えた。そしていつも通りストロークした。ボールが途中からスローモーションのようにゆっくり転がっていった。
「入った!」と叫んだのは、加瀬秀樹だった。崎山は「一瞬、真っ白になった」という。正確には、何が起きたのか覚えていないほどだった。入った。入ったんだ。と言い聞かせているようにも見えた。逆転イーグルだった。
「もちろん入れたいという気持ちはどこかにありましたよ。でも、まさか入るとは……。加瀬さんの入ったという声か聴こえて、あとは真っ白。涙が出ていたんです」
両手を上げるガッツポース。そしてウイニングラン。と、そのまましゃがみこんでしまった。泣いていたのだ。感極まっての涙だった。そこに加瀬が寄ってきた。肩を叩いた。ようやく崎山は、我に返った。
ディフェンディングチャンピオンの優勝だ。2連覇だ。シニア通算6勝目。大逆転劇だった。
「今回、心がけていたことは、自分のゴルフを貫き通そうということでした。優勝だとか、ボギーやバーディということではなく、それは自分のゴルフを貫き通した結果ですから、その結果は享受して、ともかく54ホール、貫き通したいと思っていたんです。というのも、これまで我慢しきれずに、糸が切れたりということがあったので、そういうゴルフはしたくなかったんです」と語った。
そしてスタート前には「昨日のパッティングのいいイメージを忘れないようにパッティングしようと思ってやりました。それがうまくいきました」という。注意したのは、いいイメージのときの構えたときの形の残像をそのまま具現させることだった。あとは距離感だけを気をつければいいということを、これも貫き通した。
「それを貫き通せば、バーディパットを外しても、必ずどこかで決まってくれると思っていたんです。それが、まさか最後のイーグルになってでてくるとは、信じられないです」
この大会が始まる前に、シニアツアーのアルファクラブ用に、ジェット尾崎とテレビ撮りがあった。そのとき「ジェットさんから、昨年の優勝、活躍はマグレ、今年、真価が問われるって、半分冗談交じりで言われたんですよ。確かにその通りだと思いました。それがすぐに結果に繋がったことも、実は、嬉しいんですよね。再来週、初めてメジャー大会の全米プロシニアに出場するんですけど、結果はどうあれ、自分のゴルフを貫きたいと思ってやります」と崎山は語った。
崎山の夢だった世界のメジャーで戦う目標が、すぐ目の前にやってきている。その夢を掴んだら、今度は、メジャーでの結果にこだわるゴルフを目標の階段を上げて欲しい。
劇的な逆転イーグルでの優勝。やはりゴルフは、スリリングでエキサイティングな展開が興奮する。