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〔Report/FR〕福島の熱い想いを胸に、念願の優勝杯を手にした角田

2021年10月22日
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第23回PGAティーチングプロ選手権大会 ゴルフパートナー杯

」の最終ラウンド。最終日のプレッシャーと難グリーンに悩まされる中、首位スタートの酒井柾輝(27・A)と地元福島出身の角田博満(42・TP-B)が通算4アンダーで並びプレーオフへ。18番パー5ホール繰り返し2ホール目で、角田が2メートルのバーディーパットを沈め、大会初優勝を飾った。

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 正午近くになって天気予報どおりに小雨が降り始め、やがて本降りとなった最終日。前日の強風下でのゴルフを強いられた出場選手たちが、どんなプレーを繰り広げるのかが楽しみだった。 

 通算2アンダー単独首位に立った酒井柾輝は1、2番ホールで連続バーディーを奪い、独走態勢に入りそうな勢いを着ける。だが、それにブレーキを掛けたのが1打差2位タイからスタートした角田博満だった。3番パー4ホールでバーディーパットを決めて、酒井とは2打差に詰め寄る。5番パー4ホールで酒井がボギーを叩き、1打差に縮まる。

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 ドラマは8番パー3ホールで幕を上げる。角田はロフト26度のユーティリティー(UT)クラブでティーショットした。ボールはピン方向へ向かって行った。が、しかし、一緒に飛んで行ったものがあった。クラブヘッドだった。「ホーゼルがちょっと浮いていたので、抜け飛ぶかも知れないという予感はありました。でも、まさか……でした」。その動揺を封じ込んで、角田はバーディーパットをカップに放り込み、首位の酒井をついに捕らえたのだった。「サブのUTは用意していなかったので、残り10ホールは13本のクラブで戦うことを覚悟しました」。

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 9番ホール以降、角田と酒井の一騎打ちが始まる。13番パー5ホールは両選手ともにバーディーを奪取。通算4アンダーにスコアを伸ばし、首位に座を譲らない。スコアはそのまま動かず、勝負の行方は18番パー5ホールでのプレーオフ(PO)へと持ち込まれる。

 PO1ホール目。酒井はツーオンを果敢に狙ったものの、グリーン手前から右サイドに広がる池に水面に波紋を描いたのだった。その一打を見た角田は、3打目勝負に出る。2打目をレイアップした。ボールはフェアウエイ左サイドを捕らえたものの、角田にとってはミスショット同然だったのだ。

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 東京箱根間往復大学駅伝競走。「お正月に箱根路を走る箱根駅伝の選手になりたくて、創価大学に進学し、陸上部に入ったんです。当時はまだ予選会を勝ち上がれず、しかも僕は補欠選手でした。夢は叶いませんでした。大学卒業後に、ゴルフを本格的に始めました」。実家の隣がゴルフ練習場で、遊び半分でクラブを振ったことはあった。父親の許しを得てプロゴルファーを目指したのだった。2009年、30歳でPGAティーチングプロB級ライセンスを取得。レッスン生が集まり始め、角田を支援してくれるスポンサーも見つかったことからトーナメントプロ資格取得を目指して2014年、35歳の時に一発合格を果たした。角田は遅咲きプロゴルファーでもある。

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「ツアーには14年、17年のダンロップ・スリクソン福島オープンに出場した経験があります。14年大会では74・81の予選落ちでした。ドローボール一辺倒で、グリーンに止まる球を打てなかった結果です。それを機に持ち球をフェードに変えました。グリーンに止めやすく、コントロールもしやすい。もう7年経ちますね」。

 フェードボールで攻め続けた。角田は大会開催コースの矢吹ゴルフ倶楽部でラウンドレッスンすることが多い、年に50回以上を数える。実はこの大会は角田にとって地元開催だったのだ。コースの隅々まで知っている強味もあった。それだけに「優勝して日本プロゴルフ選手権に出場したい」という思いは人一倍強かったのかも知れない。

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 PO1ホール目、レイアップしての3打目はピンまで残り90ヤード。大誤算だった。「いつも通っているゴルフ練習場は80と100ヤードの距離看板で、90ヤードがない。だから苦手距離でした。それに2打目をヘッドが抜けたロフト26度のUTだったら残り80ヤードまで運べたんですけどね」。角田は3打目をグリーン左サイドのバンカーに打ち込み、寄らず入らずのボギーで酒井と同スコアに終わる。

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 勝負のPO2ホール目。コースを良く知る角田はティーショットをフェアウエイ右サイドに運んだ。酒井も同方向へ打ち出したものの、右方向へ大きく曲げ、松林に打ち込んだのだった。

 「Risk&Reward(危険と報酬)」。角田は危険を回避してツーオン成功という報酬を、酒井は危険を回避できず、打数を重ねた。「あの右サイドに打つには勇気が必要なんです。うまく行けばツーオンしやすい。でも右にフカしやすく、松林のワナが待ち受ける。これまでもう何十回も打ったことがありましたから」と角田は白い歯を見せた。イーグルパットは外したものの、短いバーディーパットを沈めて優勝を飾ったのだった。「矢吹ゴルフ倶楽部のスタッフの方々には、いつもお世話になっているので、優勝で少しは恩返しできたかも知れません」。浮ぶ涙を抑えながら、角田は優勝を喜んだ。

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「ティーチングの仕事を通して一人でも多くのゴルファーに楽しさを伝えたいし、ゴルフを始めたいという人を増やして行きたいです」。そう言って腕時計を覗き込んだ。「ごめんなさい。18時からレッスンが、子供たちが待っているので向かっていいですか」。足早に角田は駐車場へと向かった。優勝賞金パネルを手にしていた。ジュニアゴルファーたちへの優勝報告を一番の楽しみにしていたようだ。福島県に熱いティーチングプロがいる。それを知らしめる一戦に角田は仕上げたのだった。

(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)

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