「オーバーしなければ入りませんよ」。大会前日に行われたプロアマ大会でのことだった。アマチュア3人のパットがカップインできなかった時に最後の砦としてプロが同じ位置からパットを打つ。チーム戦ならではの和気あいあいとした光景だが、勝負が懸かっているだけにチームメイトの注目も期待も集まる一打となる。
「ゲストアマチュア3人のパットを見ているのに、それでもショートしてばかりで、入ったのは1回だけだったんですよ」。
不甲斐ないパットを続けた一日だったが、寝て起きてから迎えた第1ラウンドは、まさに文字どおり、前日とは「打って」変わってパット達人となったのは久保勝美(55)だ。
「カップオーバーを心掛けた」結果は、パット数26。ショートしたファーストパットもあったが、その理由は「僕とキャディーさんとのラインの読みが正反対の時は、どうしても信用できず、疑心暗鬼となったから。でも、すべてキャディーさんが正解でしたよ、さすがです」と久保は苦笑い。
インコースからスタートした久保のスコアが動いたのは8ホール目の17番パー4ホール。カップ右手前から7メートルを一発で沈めてのバーディー奪取だ。
ハーフターン後のアウトコースでは1、3、4、7、9番ホールでバーディーを奪い、6バーディー・ノーボギー66でフィニッシュ。単独首位に躍り出た。
「コマツオープンでも初日首位発進しながら2日目に大崩れしましたからね。39パットですよ。それだけは避けたい。まずは予選通過し、その次の目標がベストテン。そして2位狙いです。1位が確定しているような選手(マークセン)がいるので・・・でも、何とか抜かして1位がいいんですけどね」と、大きな目をパチクリさせながら久保は白い歯を見せた。
今年4月、特注クランクネックタイプに作ってもらったスコッティーキャメロンの「フューチュラX5ツアー」を大会練習日の火曜日から再び使い始めた。「ネックに不具合が生じてフェース向きが変わり、7月までは使っていたのですが、それ以降は控えパターのピンタイプを使っていたのです」。クラブを宅配便で送るツアー転戦の繰り返しだったため、パターを直す機会に恵まれなかった。ようやく元通り直って来たことも爆発スコアの一因になった。
「練習ラウンドを共にしている清水(洋一)は(獲得賞金額)2000万円を超えているでしょ。だから少しでも近づきたいし、賞金ランキングを上げれば年末にある3ツアーズの出場チャンスも高まりますからね」と、久保のモチベーションを高めている要因もある。
ドライバーショットはフェアウエイを捕らえ、アイアンショットはグリーンをキャッチ。パットは「先生がいてくれたので助かりました」。同組の冨永浩、室田淳よりもピンの内側に着けられたことで、2人のラインやタッチを参考にしてパットを打てたことを久保は「先生がいた」と評してみせた。それだけショットが切れ、ピンに絡められたのだ。
コマツオープン二日目大叩きの二の舞は避ける。同じ轍は踏まない。明日、久保の意地のプレーに注目だ。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)