合格ラインが通算2オーバーなのか、それとも通算3オーバーに変わるのか。そのボーダーライン前後の選手にとっては気が気でならない。
すでにアウトコース1番組でホールアウトしていた石毛巧が話しかけて来た。「もしスコアを伸ばして合格圏外から圏内に入る選手を探しているなら照沼、照沼恭平をチェックしてみて下さい」。なぜ、照沼を名指ししたのだろうか。スタート表を見てみると通算4オーバーの選手だった。果たして逆転合格ができるのだろうか。
50位タイの合格圏外のスコアでスタートした選手たちが次ぎ次に上って来るものの、この日の天気に似て表情が晴れやかな選手が見当たらない。雨ゴルフと合否の掛かったラウンドで心身ともに疲れ切っていた。スコアを伸ばせなかったからだ。
スコアカード提出所付近が一瞬沸き上がる。「285ストローク」。通算1オーバーでホールアウトした選手が、合格圏外スコア組の中から現れたのだ。「ほらね。言ったでしょ。照沼に注目しておいてくださいって」と眼鏡越しに薄っすらと涙を浮かべた石毛の姿がいた。そして照沼の姿を目にするとすぐに駆け寄り、何度も肩を叩き、健闘ぶりを称えたのだった。「俺の事よりお前が合格したことが本当に嬉しいよ。良かった、良かった」。まるで親が子を褒めるように石毛は喜んだ。
照沼は第1ラウンドで79と大きく出遅れた。しかし、その後は70・68の好スコアをマークしていた。「第1ラウンドはまったくパットが入らず、パット数38でした。それが大叩きの原因です。去年のプロテストでは同組の3人が合格し、僕だけが落ちたし、その前はこの静ヒルズ(CC)での2次プロテスト落ちでした。一緒に練習ラウンドした川上(優大)さんも石毛もトップ争いをしているのに、僕だけ蚊帳の外でプレッシャーが半端なかったです」。照沼は3日間のラウンドを振り返った。
去年と同じ「自分だけが不合格」の思いはしたくない。その一心で挑んだ最終ラウンド。アウトコースからスタートし、5番6番ホールで連続バーディー。「5メートルの距離が2回も決まって精神的に楽になりました。パットの神様がようやく僕に降りて来てくれたと思いました」。集中したラウンドで5バーディー・2ボギー68をマーク。通算1オーバー・39位タイに滑り込み、合格したのだった。
「照沼とは大学ゴルフ部の同期で、あいつはいつも土壇場にならないと本気を出さないタイプ。だから今日は絶対60台スコアをマークすると信じていました」と石毛は話す。「今日は同組の3人が不合格で、僕だけが合格となりました。去年の、それと2次テスト落ちした一昨年の悔しさを、この静ヒルズでリベンジできて本当に嬉しいです」。2年越しで果たせた雪辱。その喜びを同期の石毛と分かち合えたことが心から嬉しそうだった。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)