鉛色の雲がコースを覆い尽くしていた。昨日は夏の終わりを告げるかのように、うるさく鳴いていた蝉の声が聞こえない。最終ラウンド。アウト・インコースともに午前7時30分スタート。
今年はスコアトップの選手から上位4人がアウトコース1番組で、それに続くスコア上位4人がインコース1番組で、さらにそれに続くスコア上位4人がアウトコース2番組でスタートする方式が採用されていた。成績上位者には、グリーンコンディションが良い状態でプレーできる「特典」が与えられたのだ。通常「トーナメント」でのスタート組み合わせでは、スコア上位者が遅いスタートとなるが、プロ「テスト」という区別での配慮でもあった。
アウトコース1番組が2番ホールのティーショットを打ち終えた時に、雨粒が落ち始める。蝉は雨が降り出すことを察知し、鳴くことを控えていたのだ。
通算11アンダー・首位に並んだ北國譲斗志、織田信亮、石毛巧の3人と、通算9アンダーの川上優大が栄えあるアウトコース1番組。川上は2番パー4ホールでパーオンしたものの、バーディーパットの距離は18メートル。それを打った途端、川上は苦笑いを浮かべた。「ラインには乗っていましたが、タッチがあまりにも強かった。そのうえ、カップインするなんて」と川上は不敵な笑いの理由を明かした。
7番パー4ホールではカップの段下から10メートルを、8番パー3ホールでも10メートルのパットをカップに放り込む。9番パー5ホールではツーオンを狙った2打目をグリーン右手前の池に入れながらもボギーにとどめた。前半でスコアを二つ伸ばしてバックナインに入った。
首位の3人がスコアを伸ばせずにいるプレーを目の当たりにしながら、川上は自分のプレーに徹した。「首位とは2打差の最終ラウンドでしたから、攻めて攻めて行くしかない。プロテスト受験を仲間から誘われ、受験することを決めた時に決めたのです。受けるからにはトップ合格する!と」。
昨年のJGTツアーのサードQTに失敗し、ツアー出場資格を得られなかった。夏場を迎えると例年ゴルフの調子が落ちてしまう傾向にあったことから、練習の取り組み方を見直した。同じ練習法をしたのでは何も変わらない。「ラウンド後には必ず練習をし、スイング修正を行うように変えました。それとパットレールを使ったパットドリルを沢山行うようにもしたのです。お陰でパットをラインに乗せて打ち出す感覚、ストレートストロークの感覚が磨かれ、パットの調子がとっても良くなりました。上手い人、シード選手の感覚ってこうなのかと思ったほどです」。
川上は2015年にプロ転向し、翌16年には下部ツアー「ひまわりドラゴンCUP」でプロ初優勝を飾っている。だが、レギュラーツアーにはこれまで9試合に出場し、予選通過は18年のダンロップ・スリクソン福島オープン(51位タイ)1試合しかない。
「今年はファイナルQTまで進み、来年のツアー前半の出場資格を取るのが第一目標なのです」と話す。今8月は18回ラウンドし、オーバーパースコアは2回しかなかったほど、かつての「夏場は不調」を払拭して、プロテストに臨んでいたのだ。
14番パー5ホール。通算12アンダー首位の北國に1打差と迫った川上はレイアップした3打目をピン奥7メートルに乗せた。北國もパーオン。7メートルのバーディーパットをねじ込んだ川上に対し、北國は痛恨の3パットのボギーを打ち、順位が入れ替わる。川上がついに単独首位に立ったのだった。
15番パー3ではオナーの川上がカップ2メートルにティーショットを着け、連続バーディー奪取に成功。この時点で2位の北國との差を2打に広げる。
17番パー4ホール。「残り2ホールしかなくなり、川上さんに追い着くにはバーディー、バーディーで上がるしかないと思いました」。土壇場に来て、逆転された北國は追い詰められていた。ティーショットが左のラフに捕まり、しかも左足、つま先下がりのライにも関わらず、池越えのピンに向かって勝負を賭けたフルショット。ボールは池に波紋を描いた。
首位を走る川上は1・5メートルのバーディーパットを確実に沈め、最終ホールでも1・5メートルのバーディーパットを決めた。7バーディー・1ボギー65。通算15アンダーで2位に5打差を着けての逆転首位合格を果たしたのだった。
「ゴルフの組み立て方はプロの試合で積み重ねて来ていましたからね。ツアープロとしてのアドバンテージが、この逆転をもたらしてくれたと思います。来年の日本プロゴルフ選手権出場資格が得られ、まずはツアー1試合の出場確定は嬉しい。さらに出場試合数を増やせるようにツアーQTでもこの調子をキープして臨みたいです」。スコア提出後、川上はトップ合格が確定するまで、練習グリーンでパットドリルを繰り返していた。「ラウンド後の練習」は、いつでも欠かさないと自分に言い聞かせるように--。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)