単独首位の谷口徹に、ようやく2打差まで追いついて迎えた最終ラウンド最終組。第1ラウンドは思うようにスコアを作れず、1アンダー・27位タイ発進。谷口とは7打差あった。第2ラウンドで66のビッグスコアを叩き出して3位に急浮上。その差は5打。第3ラウンドは悪天候でスコアを落とす選手が続出したことで、宮里も73ながら、ついに谷口とは2打差に迫り、遠かった谷口の背中が、手を伸ばせば届くところに来た。
前戦の中日クラウンズで今季初優勝を飾った。最終日最終組、最終ホールでのバーディーパットをねじ込み、谷口徹を1打突き放しての会心の一勝だった。
ショットは決して絶好調というレベルではなく、パットは日に日に上向いている感触だった。「自分が打ち出したいところへボールを打ち出せて、タッチも合って来ました。カップインできなくても、自分がイメージしたラインに打ち出せている好感触がある」と宮里は、最終ラウンドでのパットの爆発に期待していた。パットは、入り出したら止まらなくなる予感があったのだ。
第4ラウンド。1番ホールから2連続バーディーを奪い、谷口をついに捕らえた。3番ホールでは3パットでボギーとしたが、谷口もボギーを打ったことで首位タイを守れた。「谷口さんは途中ボギーで崩れてしまいましたが、少しでも隙を見せたら不味いと思って、気を抜かずにプレーし続けました」。宮里の兜の緒を緩めないプレーが4番ホールから連続バーディーを導いた。
2位の谷口とは1打差で迎えた9番パー5。先にバーディートライした谷口は、カップに沈められず、宮里はしっかりねじ込んだ。その差は2打に開いた。地元沖縄出身の宮里を応援する大勢のギャラリーからは「いいぞ!優作」「ナイスバーディ」の声援と指笛、拍手が鳴り響く。宮里は軽く右手を上げてそれに応える。グリーンサイドの身障者専用エリアで車椅子に乗って応援していたギャラリーに、宮里はバーディーを決めたボールをさり気なく手渡し、10番ホールへ向かう。
車椅子のギャラリーは何度も何度も頭を下げ、喜びを表した。
「友人に手助けしてもらって、今日初めてコースへ観戦に来たんです。こんな大切なボールを頂いて、良い思い出になります」。読谷村から車で40分掛けて宮里を応援に来た稲福常治さん(60)は、涙目になりながら喜んでいた。驚きのバースデープレゼント。稲福さんは1週間前に還暦の誕生日を迎えていたのだ。
サンデーバックナインでも安定したゴルフを展開し、宮里はウイニングパットを沈めた。第4ラウンドは8バーディー・2ボギー66をマーク。通算12アンダー、谷口に4打差をつけての大逆転優勝を故郷で飾ったのだった。
ツアー通算5勝、日本タイトル2冠を決めたウイニングボールは、ギャラリースタンドに投げ入れず、ポケットに忍ばせた。「母へのプレゼントなので」。ビッグサプライズ。大切なボールの行方は、大会前からすでに決めていた--。