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日本プロ

<FR>苦悩を乗り越えたプラス一勝。谷口のツアー通算20勝目はプレーオフで決めた

2018年05月13日
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 イメージと現実。そこにはギャップがあったり、ズレがあったりする。

 大会最終日。正午辺りから雨雲が開催コースに押し寄せ、降り出した雨は徐々に強まり、明朝まで降り続ける天気予報だった。しかし、予報は若干外れた。午後過ぎから雨粒がポツリポツリと落ち始め、本降りになったのは午後3時過ぎだった。

 ゴルフは決して平等なゲームではないのかも知れない。曇天のうちにホールアウトできる選手もいれば、土砂降りの中でプレーせざるを得ない選手がいる時もあるからだ。

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 通算6アンダー単独首位に立った藤本佳則。1打差2位で追う谷口徹。さらに1打差の通算4アンダー3位タイ武藤俊憲の3選手による最終日最終組。スタート時間は午前11時40分。1番ホールでともにボギースタートとなり、天気予報よりもひと足早く優勝争いに暗雲が立ち込める。

 最終組の3組前で回っていたM・グリフィンが8番ホールで4つめのバーディーを奪い、同組の阿久津未来也もバーディーを9番ホールで奪取し、一時は両選手が通算5アンダーで首位の座を分け合った。最終組は牽制をし合っているようなプレー内容でスコアを伸ばせずにいたのも一因だった。

 それでも最終組が10番ホールを終了した時点では通算7アンダーで藤本が首位に返り咲き、谷口は通算5アンダー5位タイに踏み止まっていた。武藤は通算4アンダー10位タイに順位を下げていた。

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 サンデーバックナイン17番ホール・457ヤードのパー4。藤本はボギーを打ち、パット名手の谷口は5メートルのパーパットをねじ込み、右手拳を握りしめてガッツポーズ。谷口は藤本に1打差と肉薄した。「このパットを入れないと(逆転優勝は)絶対にない。パットのフィリーングは良かったのでショートだけはしない気持ちで打ったら、綺麗に入ってくれた。それで、ひょっとしたら、と思った」と谷口。

 残されたホールは最終18番ホール・550ヤードのパー5。谷口の3打めをピン手前5メートルに寄せる。藤本は短いパーパットを残していた。

「出だしはフックラインでもカップ手前はストレートラインにしか見えない。真っ直ぐめに打とう」と自分の感覚を信じて打ったバーディーパットは17番ホール同様にカップに沈んでくれた。再び谷口はガッツポーズ。

 通算6アンダー首位に並んだ谷口と藤本による18番ホールでのプレーオフに試合はもつれ込んだのだった。

プレーオフ

 同1ホール目は、ともにパーセーブ。決着は同2ホール目で着いた。藤本は3オン2パットのパー。谷口は5メートルのバーディーチャンス。「しっかり打てればいい」。そう決断して放ったボールは、カップに消えた。谷口は渾身のガッツポーズを三度取ってみせ、帯同プロキャディーの石塚瑶一さんとハイタッチ!「おめでとうございます」と石塚さんはお祝いの言葉をかけたが、谷口は無言だった。

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 自身3度めの優勝杯を両手で抱えながらのテレビインタビュー。雨の雫と一緒に涙が頬を伝う。いつまでも止まぬ雨と流れ続ける涙。天命50歳を超えた谷口は、周囲をはばからず泣きながらインタビューに真摯に応え続けた。

 最後のツアー優勝からすでに6年の月日が流れていた。ツアー通算19勝を節目の20勝にできない日々。

「止めたほうが楽かなと思った時もありました。でも、止めるのは簡単だし、止めても何も変わらない。やり続けるしかない」。そう自分に叱咤激励を送り続けて来た6年間だったことを吐露したのだった。

 心が折れそうになった時期を乗り越えての日本プロゴルフ選手権3勝達成。弱味を見せない、弱音を吐かない谷口が、実は挫けそうな時期があったのだ。その苦悩を乗り越えての一勝は、これまでの19勝よりも遥かに大きい。久しぶりの優勝杯は、その重さよりも「価値の重さ」を谷口が改めて実感したに違いない。

 谷口のイメージには「パット名手」だけでなく、「勝負強い」が加わった。目下、賞金ランキング1位。これは谷口が引き寄せた現実だ。 

(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)

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