朝、目覚めると首に痛みを覚えた。寝違えなのか、疲労によるのか分からなかった。安全を期した岩田寛は5バーディー・ノーボギー66でフィニッシュし、2位タイの好発進を遂げたのだった。「謙虚……、上手く表現できないな。丁寧?」。一生懸命に適切な言葉を見つけ出そうとしている姿にこそ、謙虚さが漂っていた。
インコースからスタートした岩田は12番パー5ホールで1メートルのバーディーチャンスを確実にモノにし、前半でスコアを一つ伸ばしてハーフターンした。後半の1番パー4ホールではティーショットを右林に打ち込んだものの、エッジまで110ヤードを1.5メートルのバーディーチャンスに着けてスコアをさらに伸ばしている。「(前半は)雨が強かったですね。後半は小やみになり、ティーが前だったし…」。バックナインで4バーディーを奪えた要因を「練習ラウンドではグリーンのタッチがまったく合わなかった。(試合になって)次第にタッチが合い出した」からだと岩田。ケガの功名ではないだろうが、首に痛みが走らないようにスイングして飛距離はいつもよりも出せないものの、その分方向性は高まり、フェアウエイをキープできたのが奏功した。だが、強気な発言は飛び出て来ない。
大会舞台の日光カントリー倶楽部でラウンドするのは、18年ぶりだという。東北福祉大学を卒業した2003年。同年の日本オープンもまたこの日光CCが開催コースだった。日本オープンに出場する大学ゴルフ部後輩と知人、その知人と懇意にしている片山晋呉との練習ラウンドに「一人空きあり」から岩田に誘いが掛かかった。日本オープン開催1週間まえのことだった。メジャー大会仕様に仕上げられている名門コースでプレーする機会は滅多になく、しかも2000年の賞金王、その当時ですでにツアー通算13勝以上も挙げている片山とラウンドできるチャンスなど皆無に等しいことから快諾した。ラウンド当日は驚くことばかりだった。初対面の片山は「オーラがビンビンでした。緊張しました」と記憶がよみがえる。練習場での片山のショットに目を見張った。アイアンだけでなくウッドショットでもボールが真っ直ぐ、しかも同じ地点にしか飛んで行かない。「どうして練習しているんだろう」。それほど繰り返し同じショットを打てるなら、練習しなくても良いのではないか。ツアー屈指の選手のショットは衝撃的だったという。さらには「目力が強くて…。片山さんは人の目を凝視するように話しますよね。その頃はシャイの全盛期だったので、人の目を見て話すことなんてとてもとても」と岩田。
日本プロ開催週の月曜日、片山の姿を目にした岩田は駆けつけて、18年前に一緒に練習ラウンドしたことを切り出した。「覚えているよ」と片山。
今年は中日クラウンズで6年ぶりのツアー通算3勝目を挙げている岩田。あの時よりも遥かに成長していることを実感しているだろう。思い出のコースで、日本タイトルの一戦で戦う自分がいる。あの時感じたオーラを今度は自身がビンビン漂わせる番だ!