福沢孝秋(64)が「無欲」の勝利を挙げた。
「こんな面子だし、勝てないと思って適当にやったのがよかったのかな」。最終組には仲良しで連覇がかかる初日首位の三好隆、グランド「新人」の羽川豊、そして「シニアの鉄人」室田淳が一緒に回る。1組前には永久シード選手尾崎直道、倉本昌弘。首位から3打差以内でスタートしたこの6人に優勝争いにしぼられていた。
スタートすると、三好は2番でダブルボギー、羽川は1番でカート道にはねて林に打ち込むなど出入りの激しいゴルフ、室田も5番で池に入れてトリプルボギーなど「みんないろいろやってくれて、気が楽になった」という。自身も7番ボギーで1つスコアを落としたが、8番で上2メートルを入れてから3連続バーディーがきた。尾崎直が前半4つ伸ばして一時は8アンダーで首位にあったが、13番ボギーにするなど後半失速。伸ばしきれない首位がくるくると入れ替わる中で、福沢は15番で2メートルのバーディーを入れて通算8アンダーに抜け出した。
ピンチは最終18番。フェアウエーからグリーン右に外した。「145ヤードで中途半端だった。9番アイアンなら少し小さくて8番は大きい。8番で軽く打ったら開いちゃってね」と振り返る。右ラフからのアプローチは1・5メートル。「一番狙いやすい右カップのふちを狙えばいいフックラインだったのがよかった」と、緊張の中でパーに収め、思わずガッツポーズも出た。
このタイトル初優勝だが、格別の思いがある。「シニアの日本タイトル2つ(シニアオープン、プロシニア)をとっているので、これで日本タイトル3つ目になった。最高の気分ですよ」と笑顔を見せた。
若い時は野球選手。社会人野球のTEACで捕手として活躍していた。20歳の時に「暇があったのでゴルフをやってみた」ところがその道に進むことに。22歳から本格的にゴルフを始め、諏訪湖CCに入って5年でプロになった。「野球で重いマスコットバットとか振って来たから」と飛距離は300ヤード以上あったが、レギュラーではツアー優勝には恵まれなかった。シニアになって開花。2002年日本シニアオープン、2004年には日本プロシニアを制した。昨年は関東プログランドで優勝。公式戦には強い。
「このメンバーの中でやれたから、少し自信になった。シニアツアーでも勝負できるかな」。8月で65歳を迎える今でも、270ヤードを飛ばす。首の血管が詰まる病気のため、薬を飲んでプレーしており、あまり無理はできないが、今回のそうそうたるメンバーを押しのけて優勝したことで、気持ちが前向きになってきた。
(オフィシャルライター・赤坂厚)