クラブハウス前のパッティンググリーン上で行われた大会表彰式。台風一過で夕焼け空が広がり、辺り一面はオレンジ色に照らされていた。壇上に上がった谷正明大会会長が優勝者のプレーを称賛し、称号を与えた。「高齢者の星」--。
大会初日、5アンダーをマークして首位タイで最終日最終組の座を射止めた66歳、三好隆が二日間首位の「完全優勝」で12年ISPSハンダ灼熱シニア以来のシニアツアー通算8勝目を飾った。
前半を1バーディー・1ボギーで折り返した時点では、2位に1打差を着けていた。だが、後半に入って10番パー4ホールでパーオンを逃し、3打目のアプローチを寄せ切れず、3メートルのパットを外してしまった。
「(同組最終組の)久保(勝美)は粘いね。アプローチもパットも自分が練習して来たという裏付けがあるから我慢出来る。それが歳を重ねて、椅子から立ち上がるにもヨイショと声を出すようになると自分に対して過保護になってしまう。悔しさが薄れ、仕方ないかと悔しさ克服の努力をしなくなってしまうんだよね」
年下の選手とは違って、還暦を過ぎるといつしか勢いも衰える。
無事是名馬が座右の銘。大好きなゴルフを一日でも長く続けたい。ツアーで戦っていたい。そのためにも病気やケガは絶対に避けたいと常々思っている三好だが、春先にアクシデントが襲った。研修生のスイング矯正をしていた際、スイング軌道が変わり、クラブヘッドが三好の左手中指の第一関節を直撃し、骨折。それが原因で夏場まで、本来のフィニッシュが取れないスイングを強いられた。フィニッシュまでクラブを握り続けられなかった。成績不振も続き、賞金シード落ちの危機を迎えてしまう。
「賞金シード獲得の最高年齢記録は青木(功)さんの66歳。おこがましいけれど僕も年頭に賞金シード奪取を目標にしたんです。それなのに残り4試合で賞金ランク43位。賞金シード獲得の30位に入っていない。実は、この試合に出向く直前、(来季の)出場予選会の案内が届いていたので、申し込んでおいたんですわ(笑)」。
背水の陣で迎えた大会初日。悪天候の中で5アンダーをマークし、首位タイの好位置に着けた。優勝したなら1年シードを獲得できる。予選会に出場する必要は無くなる。
「踏ん張りどころの気持ちを抱かせてもらえましたね。ボギーを打って、久保に並ばれましたが、チャンスが来るのを待つ戦法でプレーしました」。
13、14番ホールともに2メートルのバーディーチャンスを迎え、確実にモノにした。17番ホールでは1・5メートルをねじ込み、2位に2打差を着ける試合巧者ぶり、老練なプレーぶりを存分に発揮し、最終18番ホールでは30センチのウイニングパットを沈めてガッツポーズを決めた。
「また来年もツアーに出られる。毎年若い選手が参戦してくるから賞金シード30位に入るのはきびしくなるけれど、来年も頑張って再来年のシードを獲りたい。その繰り返しですわ」と語気を強めた。
「高齢者の星と言われましたが?」と、その感想を尋ねると「高齢者でしょうね。でも、いつかは(優勝する)の夢を見ながらやって行きたい」と三好は答えた。高齢者の星は、いつまでも輝き続けようとしている。そのひた向きさに頭が下がるばかりだ。
(PGAオフィシャルライター 伝昌夫)