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シニアツアー

【ファンケルクラシック・FR】米山はわずか30センチのウィニングパットに感謝の気持ちを込めた

2017年08月20日

 夢に見ていたウイニングパットの距離はわずか30センチだった--。

 レギュラーツアーのシード権を失い、米山剛は40歳を過ぎてからシニアツアーでの活躍に向けてスイング改造や体のケアを積み重ねて来た。シニアデビューした2015年の日本シニアオープンでは、最終日最終18番パー5ホールまで1打差で競る優勝争いを平石武則と演じた。1打差2位の米山はツーオンし、3メートル強のイーグルチャンスに着けると、首位の平石は3打目をピンそば15センチに寄せた。米山がイーグルパットを沈めたなら、プレーオフに持ち込める。「土壇場」での大事な場面で米山はイーグルパットを引っかけるミスをし、2位に甘んじる。それ以降、そのパットミスがことあるごとに脳裏をよぎるようになってしまい、シニア初優勝も手にできない日々を過ごしていたのだった。これまで2位フィニッシュは5回を数える。

今週は自宅から車で40分ほどの距離にある裾野カンツリー倶楽部で大会が開かれたことから、米山は車通勤で出場。ツアー転戦先とは異なり、プレー後は自宅で過ごせることで心身共にリラックスして試合に臨めた。

 最終日、通算2アンダー・13位タイの米山はアウト7組の午前9時にティーオフ。その1時間10分後にスタートする最終組首位の加瀬秀樹とは5打差があった。前半でスコアを2つ伸ばし、7番ホールから4連続バーディーを奪った。その後はパーをセーブして迎えた17番パー3ホール。風向きをアゲンストに感じ、6番アイアンでのドローボールをイメージしたが、「フェースが被り過ぎて」(米山)、グリーン左サイドに外し、寄らず入らずのボギーとし、通算6アンダーにスコアを落とす。

「速報版から(通算)8アンダーにしないと首位には追いつけないことはわかっていました」。最終18番パー5ホール。1打目をフェアウエイ右サイドに運んでの2打目はピンまで260ヤード。グリーン右サイドのピンに対してフェードボールで攻めるイメージを描いた。「本当に納得できる会心のフェードが打てました」。7メートルのイーグルチャンスに着けた。一発で仕留めたなら首位に並べる。しかし、米山は思うようなパットを打てず、2回でカップイン。通算7アンダーでフィニッシュし、クラブハウスリーダーとなったのだった。

「プレーオフ? 後続選手が8アンダーでは上がると思いますよ。スコア速報を見ながら、気持ちだけは切らさないように待ちますよ」

 そんな米山の読みは外れ、通算7アンダー・首位に米山をはじめ、スティーブン・コンラン、金鐘徳、真板潔、清水洋一が並び、18番パー5ホールでのプレーオフ決戦となった。

 同1ホール目で真板が脱落し、同2ホール目では清水と金がツーオン。米山はレイアップしての3打目はディボット跡からだったが辛うじてピン奥7メートルに乗せた。バーディー奪取でなければ生き残れない。プレーオフに進めない。「入らなくても仕方ない。でも、ショートだけは絶対させない、したくはない」と半ば開き直って打ったパットはカップのど真ん中から沈む。3年前の「土壇場」でのあのミスパットを取り替えして余りある一打になるとは、その時点では思いもしなかった。

 清水、金、コンランもバーディーに終わったことで、米山は息を吹き返す形となり、プレーオフは3ホール目に突入し、ピン位置はグリーン左手前に切り直された。

 米山の2打目はピンまで234ヤード。打ち下ろしを加味したなら217ヤード。「5番ウッドでは大き過ぎるし、4番UTの飛距離目安は200ヤード。グリーン右からのフックボールなら寄せ切れる」。米山の決断は、プレーオフに決着を着けた。ボールはピンそば30センチにピタリ止まったのだ。「打ったが自分が驚くほどのショットでした」。 タップイン同然のウイニングパットを米山は沈め、シニア初優勝をついに飾ったのだった。

「レギュラーツアーから消え去ったこんな男でも、ずっと応援し続けてくれる方々いるなんて本当に有り難い。歳を取ってみて、応援や声援が力になることを知りました。この優勝を自信にし、少しでも優勝争いに加わり、一つでも多く優勝するように頑張ります」と米山。感謝の気持ちを成績で恩返し。次はタップインではなく、しっかり打ってのウイニングパットで勝利の美酒を味わいたい。一試合でも早く--。

(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)