最終日、第9組目がフロントナインを終えて、クラブハウスにビックスコアのニュースを届けてきた。小林浩二(58・TP-A)が、前半でスコアを6つ伸ばして上がってきたという内容だった。
3番ホールをバーディーとすると、5番ホールから5連続バーディー奪取と圧巻のプレーを展開。1メートル前後のバーディーチャンスは、勢いにのって、確実に決めることができていた。
ハーフターン後の10番ホールでもバーディーを獲り、この時点で6連続バーディーとなった。そして12番パー3ホールをバーディーとし、一気に8つスコアを伸ばした。同伴競技者も、小林の快挙を素直に喜んでくれていた。しかし、このあたりから少し「優勝」という言葉が頭をよぎりはじめた。
それまで思うようなショットとパッティングができていたのに、なにかがざわつき始めた。難易度の高いホールが続く後半の15番パー3ホールでは、6メートルのパーパットを沈めて、パーセーブ。16番ホールでは、セカンドショットがガードバンカーの目玉になり、痛恨のダブルボギーとなった。スコアを意識した結果だった。最終ホールまで我慢が続いたが、この日66ストローク通算4アンダー、この時点でクラブハウスリーダーとなった小林は、久々の会心ゴルフに、心身共に充実を感じていた。
小林がホールアウトしてから、6組後の最終組がプレーを終えて、クラブハウスにやってきた。17番ホールまで、5アンダーとトップに立っていた吉成が、最終ホールをボギーにしてしまい、吉成と小林のプレーオフ決戦になったのだった。
10番パー5ホールでのプレーオフ1ホール目。2人のティーショットはフェアウェイを捕らえた。しかし、小林のショットは、吉成とは30ヤードも差をつけられていた。小林は「飛距離では到底かなわないから、最後まで自分の出来るだけのプレーでやるしかない」と、気持ちを切り替えた。小林のセカンドショットはガードバンカーへ。一方の吉成のセカンドショットは、左に大きく外れてしまい、ボールは林の方へ飛んでいき、木の根っこに止まった。吉成はスタンスが取れず、後ろ向きにボールを出したが、グリーンをオーバーして4オンがやっとだった。
小林のバンカーショットは5メートルの距離を残した。バーディートライは失敗したが、パーセーブまで残り30センチまで近づいた。吉成が3メートルのパーパットを外すのを見守り、小林はパーパットを沈めて、勝負に終止符をうった。小林にとっては、初のプレーオフ決戦、そして大会初優勝を飾ることができたのだった。
「PGAに入会してから34年になりますが、PGAの競技優勝は初めてです。本当に嬉しい。夢をあきらめず、練習に練習を重ねてきた結果、ご褒美もありましたね」と、小林は顔をほころばせた。
「練習はやっぱり裏切らない。大会初日も違和感があって、試合中でもあれこれと試行錯誤しながらやっていたんですよ。最終ホールはバーディーが獲れて気分も良かったので、そのまま練習場に直行し、30球だけ調整しました。そこで、ひらめいたんです。ショットとパッティングのグリップを変えたんです。思えば思い切りましたよね(笑)。最終日は、そのひらめきが功を奏して、ショットもパットも上手くいきました。びっくりするくらいです」と、この2日間を振り返っていた。
そして、所属する能勢カントリー倶楽部への感謝も忘れなかった。「プロ入りしてから20年はフリーで練習しながら、ツアーへの出場を夢見てきました。ある時ご縁があって、この10年間は、兵庫県にある能勢CCでお世話になっています。メンバーさんのリクエストをいただきながら、ラウンドレッスンをしていますが、本当に素晴らしいゴルフ環境です。これからも自分の練習にも精を出しながら、みなさんへいいレッスンができるように、日々頑張ります」と決意を新たにした。
最後に「シニアツアーで優勝することが夢なんです。今年の予選会への挑戦が、今から楽しみです」と、夢を話してくれた。小林にとって、新しい一歩を踏み出すきっかけが、ティーチングシニア選手権の優勝となった。