優勝カップを手にしての記念撮影を終えた室田淳は、足取りも軽くクラブハウスに戻り、インタビュー取材が始まった。
「あのバーディーパットは本当にラッキーだったよね」と振り返った。
6アンダーで水巻善典とともに首位タイでスタートした室田は、前半を3バーディー・1ボギーで折り返し、この時点で通算8アンダー。水巻はスコアを一つ落として通算5アンダー。最終組の二人は明暗を分けた。
後半に入って室田が10、11番ホールでの連続バーディーを奪取する。
「10番パー4ホールは、フェアウエイセンターからの2打めをグリーンオーバー(苦笑)。ファーストパットはフックライン。思っていたよりも右に打ち出してしまって…それが入ったんだよ。今日一番のラッキーだったね」。
その幸運をさらに活かして11番ホールでは5メートルのスライスラインを一発で沈めたのだった。これで独走態勢を固めたかのような試合展開。しかし、サンデーバックナインのドラマは、ここから始まった。
12番ホール終了時点で室田に6打差を着けられていた水巻が13、14番ホールでバーディーを奪うと16、17番ホールでも連続バーディーを決め、最終ホールを前に1打差まで詰め寄って来たのだ。
「1打差まで追い上げてきた水巻には、勢いがあった。プレーオフかとも思ったよ。ここが勝負どころだとも感じたね。18ホールすべて勝負だと思ってプレーしたら持たないからね」。ティーショットをフェアウエイセンターに運び、ピンまで残り240ヤードの2打目を3番ウッドで打った。「ダフった」当たりはカートパスをコロコロ転がり、ピンまで残り20ヤードまで近寄った。サンドウェッジでの3打目をカップ上1メートルにピタリと着けたのだ。
「最終ホールでの水巻との一騎打ち。ショット、パットでプレッシャーを掛けたら、相手は無理をしてでもバーディーを取ろうとする。自分が良いプレーをしたなら、相手はあれこれ考えてしまう。プロゴルファーしか分からない、感じない勝負の世界があるんだよ」。シニアツアー通算19勝、百戦錬磨。元祖キング・オブ・シニアの室田は、終始、水巻に重圧を掛けるショットを打ち、3打目の寄せでトドメを差した。最後はバーディーフィニッシュ。今季初Vは、通算10アンダーで2位タイの水巻、髙橋勝成に2打差を着けての日本プロゴルフグランドシニア選手権大会初制覇だった。
「腰痛を抱えているけれど、体調を整え、トレーニングもして、次は打倒(プラヤド)マークセン!だね」。痛みを吹き飛ばす特効薬は優勝、シニアツアーをさらに盛り上げる起爆剤は元祖キング・オブ・シニア。室田のターゲットはシニア賞金王の座に定まった。