首位と2打差の通算3アンダー・8位タイからスタートした鈴木亨が猛チャージ。8バーディー・1ボギー65で回り、逆転優勝! 今季3勝目、シニアツアー通算3勝目を最終戦で飾った。3打差の2位タイには、金鍾徳とグレゴリー・マイヤーが入り、さらに1打差の4位タイに、田村尚之、清水洋一、杉原敏一の3人がフィニッシュした。
「出来過ぎです。画に書いたように、1試合おきに優勝できるなんて」。優勝インタビューで、鈴木は語り始めたのだった。シニア入り3年目。今年10月の福岡シニアオープンで念願のシニア初優勝を飾り、2試合連続Vを期して臨んだ地元・千葉県で開催された富士フイルム選手権では62位タイに終わった。翌試合のエリートグリップシニアで2勝目を挙げる。だが、再び翌試合のISPS・ハンダカップ・フィランスロピーシニアトーナメントは12位タイでのフィニッシュ。ベストテンに入ることすらできなかった。優勝した翌試合で成績を残せない。「1試合置きでいいから勝てたらいい」。そんな思いが現実となり、鈴木は年間3勝をマークして、2018年のシニアツアーを終えたのだ。
前半戦はパット不振に見舞われて、成績を挙げられずにいた。かつて愛用していたパターに替えたことでパット感覚が戻り始めたのは日本プロシニア選手権からだ。成績は2位タイ。プラヤド・マークセンとの優勝争いに敗れての2位タイながら、グリーン上での不安が解消されたのは大収穫だった。その翌週に開かれた佐世保シニアオープンでは3位タイに入り、好調をキープ。そして福岡シニアオープンでの初優勝、エリートグリップシニアでの2勝目に結びつけたのだ。
しかし、この2勝はともに2日間競技。3日間、公式戦の4日間競技で優勝したい思いが心の奥底にあったのも事実だった。
鈴木はオフシーズンの3月、重信秀人に誘われ、広田悟と3人でいわさき白露シニアの開催コースいぶすきゴルフクラブ・開聞コースでのミニ合宿を行っていた。2000年のカシオワールドオープン優勝の経験を持つ鈴木にとって、ショットイメージを磨いたり、シニアツアー最終戦の舞台を予めチェックしたりするのにも好都合だった。
日本プロシニア選手権前のことだった。かつてレギュラーツアー時代に帯同キャディーをしてもらったことのある、PGAティーチングプロの柿沼基介から電話が掛かって来た。「亨さん、最終戦でバックを担がせて頂けませんか」。帯同キャディーをまだ決めていなかった鈴木は快諾した。柿沼とコンビを組んで2009年にはマイナビABC選手権で優勝を飾っていた。久しぶりのコンビ復活。気心の知れた仲だけにラウンド中の会話も弾む。「3日間競技で勝ちたいんだ」。プレーの合間に鈴木がポロリと本音を漏らすこともできた。「頑張りましょう」と柿沼は力強く頷く。
第1ラウンドは4バーディー・2ボギー・70として2アンダー・5位タイ。迎えた第2ラウンド。1番ホールのスタートティーで鈴木は、ドライバーショットを大きく曲げ、暫定球を打った。それもOB方向へ消えたことでもう一度、ドライバーショットを打ったのだった。3打目がセーフだったことで、ダブルボギーでホールアウト。9番ホールでのドライバーショットもOBエリアに打ち込んでしまう。前半はスコアを戻せず、「ハーフ40を叩いて焦りました」。しかし、それでも後半に入ってからはショットとパットが噛み合い始め、2連続バーディー奪取2回を含む5バーディーで71にスコアをまとめ上げ、通算3アンダー・8位タイに踏み止まった。首位とは2打差で最終日を迎えることが出来たのだ。
「4月のシニア後援競技の時に奥田(靖己)さんから叱咤激励を受けたんです。『亨が勝たないとシニアツアーが盛り上がらん。OB(ショット)を怖がるな』と。そう言われて有難かった」と鈴木。実際、OBショットを放ったものの、3打目が直接カップインしてパーを拾う経験もした。奥田の言葉が鈴木のゴルフをアップデートさせて行った。勇気を持って臨めば道は自ずと拓ける。諦めるな--。好成績を残せないツアー前半だったが、練習は決して怠ることはしなかった。
いわさき白露シニア最終日。鈴木は最終組の二組前でスタート。1番パー4ホールの2打目をピンそば50センチに着けてバーディーを奪うと、2番パー4ホールでは2メートルを沈めて連続バーディー奪取。7、8番ホールでの連続バーディーで通算7アンダーとし、首位の座に就いた。通算4アンダーで発進した同組の金鐘徳も1、4、7番ホールでバーディーパットを決め、首位に並ぶ。試合は鈴木と金との一騎打ちとなった。
サンデーバックナイン。10番パー4ホールで両者ともにバーディーを奪い、一歩も譲らない。金が11番パー4ホールでこの日初のボギーを打ち、2位に後退したものの、今度は鈴木が12番パー3ホールをボギーとし、再び首位タイとなった。
だが、13番パー5ホールで鈴木が4メートルのバーディーパットを決め、通算8アンダーで単独首位に立ち、17番パー3ホールを迎える。
グリーン手前から左サイドに池が広がる。ピン位置は手前から14ヤード、左から7ヤード。ティーグラウンドからは完全な池越えショットとなる。「ピンまでは148ヤード、風向きはアゲンストです」と帯同キャディーの柿沼が鈴木に告げる。「8番アイアンでのフルショットの距離。しかし、少しでもインパクトをミスしたら池に打ち込む可能性は高い。7番アイアンでピン奥へ確実に乗せる選択肢もある」。鈴木も柿沼もそう考えた。 2000年カシオワールド優勝の思い出が、鈴木の脳裏に浮かび上がって来た。ジャンボ尾崎の猛追を受け、迎えたこの17番ホール。距離は違うものの、池越えの似たようなピン位置だった。「池を怖がらずに打ち、3メートルに着けてバーディーを奪い、勝った」。ミスショットを「怖がるな」という奥田の言葉も過ぎった。8番アイアンに手を伸ばした鈴木に柿沼は声を掛けた。「しっかり振って行きましょう」。鈴木は力強く頷く。淀みのない乾いたインパクト音。ピンに向かって飛び出したボールは、ピン1・5メートルに着いた。金を突き放すバーディー奪取。「金さんが3パットのボギーにしてしまったこともありますが、勝負の一打になりましたね」。
鈴木は最終18番ホールでもバーディーを奪い、8バーディー・1ボギーの65でフィニッシュ。通算10アンダーにスコアを伸ばし、念願の「3日間競技」制覇を逆転劇で果たしたのだった。
表彰式で鈴木が優勝カップを手にしている時、帯同キャディーを務めた柿沼はロッカールームで荷造りをしながら、呟いた。「僕にとって、亨さんとは、あのマイナビ選手権以来の優勝ですよ。3日間競技で勝ちたいと言って、本当に勝つなんて…」。
今季5勝を挙げ、2年連続シニア賞金王の座に着いたプラヤド・マークセンの名を挙げ、鈴木は優勝インタビューの最後にこう言った。「一人の人がいっぱい勝つのはあまり良くないと思う。(3日間競技Vで)来年は(マークセンから)挑戦状を貰えるかな」。
20019年シニアツアーは、これまで以上に熱い戦いが繰り広げられそうだ。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)