「もう、あれから一年ですよ。早いですね」。プロアマ大会を終えた寺西明は、そう言いながらドライビングレンジに姿を表した。先週のISPS・ハンダカップ・フィランスロピーシニアトーナメントで今季初優勝、シニアツアー通算2勝目を飾っただけに、表情は柔らかい。開門岳を背にしてボールを打ち始めたのだった。コースに点在する棕櫚(シュロ)の葉が、吹き上げて来る風で揺れている。
「一年前のISPS・ハンダカップは予選落ちし、それが悔しくて帰宅せず、翌日も開催コースの練習場でボールを打っていましたからね。ショットもパットも調子が悪くないのにスコアに結びつかない。そんな状態でした」。その翌試合となったこの大会で、寺西は念願の初優勝を挙げた。
今年はシニア2勝目を目指し、張り切ってツアーに参戦したものの、思うような結果を残せず、夏場には熱中症にも見舞われ、ゴルフの調子を落とした。しかし、秋以降は復調し始めた。「それでも、またですよ。スコアにつながらない病の再発で…。ゴルフ好調なのに勝てない自分に苛立ちを覚えていたのでしょうね。諸先輩から技術的、精神的なアドバイスを頂いて、自分に不足しているのは何なのかを突き詰めたのです」。答えは、寺西本来のゴルフ。「ゴルフそのものを楽しめていない自分に気づきました。勝つ、勝たないという結果よりも、自分の力を出し切り、自分ができるだけのことをしよう。自分のゴルフの原点に戻ればいいと思ったのです」。その結果が、ISPSハンダカップでの優勝をもたらしたのだった。
2勝目を喜んでくれる人が思っていた以上に多いことが嬉しかった。励みにもなる。シニアツアー最終戦で初優勝して一年。「今年は2連覇が懸かっているんですよね。そんなチャンスを持っているのは(前回覇者の)僕だけですから、頑張りますよ。あれから一年、これからの一年につながるプレーをして楽しみたいです」。寺西は初優勝した時の喜びを思い出しながら、細い目をさらに細めた。2試合連続Vそして大会2連覇。プレッシャーの欠片がまったくない。棕櫚の葉を揺らす風も、寺西には追い風になりそうなほどだ。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)