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シニアツアー

〔エリートグリップシニア・FR〕鈴木亨がプレーオフを制し今季2勝目

2018年11月10日

 首位と1打差の通算3アンダー2位タイでスタートした鈴木亨が、66をマーク。通算7アンダーでフィニッシュした田村尚之と首位の座を分け合い、プレーオフの末に田村を下して今季2勝目を飾った。プレーオフ2戦2勝、初Vを挙げた福岡シニアから2試合目での年間2勝と「2」づくめの勝利となった。

 鈴木は第1ラウンドの最終グリーン上で2勝目への布石を打っていた。

「レギュラーツアー時代には、優勝した翌試合でも好成績を挙げていましたが、シニア入りして3年目での初優勝後の富士フイルムシニア チャンピオンシップでは何をやってもまったく上手く行かなかったんです(結果62位タイ)。そんな経験は初めてでした」。不甲斐ない成績で焦りが生じた。1試合でも早く2勝目を挙げないと、勝ち方も勝利の美酒の味も勝った記憶も余韻も消え失せてしまうかも知れない。そんな思いを心の片隅にあった。

 改めて気を引き締め、臨んだ今大会だったが「高麗芝のグリーンは硬く、芝芽が効いていた」ことから、優勝を遂げるのは難しい思いが過った。案の定、初日では狙った地点へ打ち出したパットが入ってはくれなかった。それでも3アンダーで迎えた最終ホールでは、さらにスコアを一つ伸ばすチャンスを作り出した。18番グリーンサイドの速報版を見ながら自分の順位を確認しながらグリーンへと上がる。パットラインを読んだが、カップインさせる確信は持てなかった。「バーディーを取りたい思いもありましたが、入らなかったら最終組に回らずに済むことも分かっていたので、(バーディーを)取っても取らなくともどちらでもいいと考えながら打ちました」。結果は2パットのパー。3アンダー2位タイで最終日は最終組のひと組前からのスタート位置を確保したのだった。

 通算3アンダーの鈴木、通算2アンダーの田村尚之、冨永浩とのラウンド。1番ホールで鈴木と田村がバーディー奪取スタートを切る。4ホール目終了時点では田村とともにスコアを3つ伸ばす。鈴木が6番ホールでボギーを打ち、田村は9番ホールでバーディーパットをねじ込んだ。「田村さんが良いパットを次々に決めて、『なんて余計なこと』をするんだと内心そう思っていました」と鈴木は振り返った。前半9ホールを終えて、田村が通算6アンダー単独首位、鈴木が通算5アンダーで追う。田村との一騎打ちが後半9ホールで待ち受けていた。

 10番ホールで田村がボギーを叩き、鈴木は11,12番ホールでの連続バーディーで首位に並んでいた田村を突き放す。しかし、今度は田村が13、14番ホールで連続バーディー。鈴木も14番パー5ホールで確実にバーディーを取り、1打差首位を保つ。17番ホールで田村がバーディーパットをカップに放り込んで再び首位に並んで迎えた最終18番パー4ホール。互いにパーオンできず、田村は4メートル、鈴木は80センチのパーパットを残した。田村のパーパットが外れた。その瞬間、短いパーパットの鈴木の勝利が決まったように思えた。

 18番グリーンを取り囲むようにして見守るギャラリー。「わからんよ。短いから入るとは決まっとらんよ。ここのグリーンはそんなに易しくない」。鳴尾GCを良く知る一人のギャラリーがそう囁いた。その言葉通り、ボールはカップ左縁を通り過ぎた。ため息がコース中に響き渡る。

 通算7アンダーで首位を分け合った鈴木と田村のプレーオフ決戦。18番ホールで行われた同1ホール目。田村はパーオンを逃す。一方の鈴木はドライバーショットをフェアウエイ中央に運び、2打目はピンまで191ヤード。4番アイアンを手にした。「アゲンストの風でした。グリーンは確実に捉えたい」思いで放った2打目はピン手前に8メートルに乗った。田村は3打目をピン手前4メートルに寄せた。鈴木のファーストパットをカップ手前80センチで止まった。田村がパーパットを決めきれずボギー。鈴木がウイニングパットを決め、2試合ぶりの今季2勝目、シニア通算2勝目を手にしたのだった。

 敗れた田村は、最終日の計19ホールの熱戦を堪能したようなコメントを残した。

「この難コースで5アンダーの65。17番ホールで長いバーディーパットが決まって追いつけました。18番ホールは本戦もプレーオフでも風向きを読み切れず、ティーショットをフェアウエイ右サイドに打ち込んでしまいましたね(いずれもパーオンできずのボギー)。でも、プレーオフまで行けて良かった。この夏まで200万円しか稼げず、賞金シードが危うかったんですからね。右脇腹痛もほとんど良くなり、その痛みのお陰でスイング的にはそっくり返らずに振れるようになりました(笑)。ここ3試合で6位、3位、2位。残り2試合でも優勝争いができるように頑張りますよ。今日は良い試合、良い戦いができました」。

 鈴木は勝因を次のように解説した。

「1番ホールで6、7メートルのバーディーパットが入り、今日はキャディーさんに(ラインを)聞いた方がいいなと思いました。初優勝した試合でもハウスキャディーさんが読んだライン通りにパットを打って、入りましたからね。田村さんとの一騎打ち。争って勝てたことが嬉しいです」。

 初Vの最終日と同じく、ピンク色のウエアをあえて着て最終日に挑んだ。験を担いだ。「昨日、『ルーキーに簡単に勝たせるわけにはいかない』とは、言いましたが、そんな上から目線での発言をしたつもりではなかたんですよ(苦笑)。僕が優勝するまで本当に苦労したんだから、その思いが強まっての言葉だったんです。あとが少し後悔したというか、逆に自分に(勝たなければの)プレッシャーを掛ける形になったみたいでした。だから、本当に逆転優勝できて、今はホッとしています」と鈴木は昨夜の胸の内を話した。

 最近、鈴木が考えていることがある。

「シニア世代になってもこうして真剣勝負の世界でプレーできている。とても有り難い。この戦える場を継続させるために、自分たちはどうしたら良いのか」。

 熱戦を繰り広げたこの一戦で、その答えを自ら手繰り寄せたのではないだろうか。プレーしている選手自身が感動する戦い。それをギャラリーに、ゴルフファンに、幅広い層に披露することなのだと--。 

(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)