「今日のペアリングは濃かった。倉本(昌弘)さんと水巻(善典)さんですよ。60歳台の二人ですからパワーを、2日分の体力を使いました」。スコアカード提出後、鈴木亨はそう語った。下手なゴルフは出来ないという緊張感があった。しかし、その張り詰めた空気がプラス方向に働き、鈴木は5バーディー・2ボギーでラウンドし、67の好スコアをマークしたのだった。
「(開催コース鳴尾GC所属の)水巻さんはグリーンを良く知っているし、高麗グリーン攻略が(ツアー界で)一番上手いと僕が思っている倉本さんは、さすがにグリーンの対処が巧かった。僕なんで狙って打って入ったパットは1回もなかったんですから」と鈴木は大先輩二人に敬意を払った。
しかし、しっかりスコアは作り上げている。2試合前の第3回福岡シニアオープンゴルフトーナメントで念願のシニアツアー初優勝を飾り、残り試合でさらに優勝回数を伸ばしたい思いが一段と強まっている。1勝するまでに3年を要した。それまで何度もチャンスはあったが、逃してきた苦い経験もある。
2016年アルファクラブCUPシニアでのことだった。最終日、首位の室田淳と4打差からスタートした鈴木は愛称の「ボンバー」ぶりを発揮して65でフィニッシュし、通算13アンダーでクラブハウスリーダーとなった。室田は「ルーキーに簡単に勝たせるわけにはいかない」一心でプレーし、68で回り切って通算14アンダーフィニッシュ。鈴木を1打振り切って優勝を手にしたのだった。「簡単に勝たせるわけにはいかない」--。室田の言葉の矢が、鈴木の心に突き刺さった。その矢が抜けない。悔しさと痛みが消えない。
そんな鈴木は明日の最終日、最終組・単独首位の伊澤利光のひと組前、1打差でスタートする。「室田さんが口にしたあの言葉を、伊澤に言ってやりますよ。そう簡単には勝たせたくはありません。僕だって初優勝するまで苦労したんですからね」。鈴木は先輩の意地を残り18ホールで見せつけ、年間複数回優勝を手にする構えだ。濃い戦いが見ものだ。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)