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シニアツアー

【福岡シニアOP/FR】勝負色が光り、プレーオフを制した鈴木は念願のシニア初優勝

2018年10月28日

「早く優勝しないと」--重い十字架を背負っていたシニア入り3年目の鈴木亨が、プレーオフの末にG・マイヤーを下して念願のシニア初優勝を決めた。

 首位と3打差の3アンダー・4位タイで最終日スタートした鈴木は、前日同様に冷たい風が吹いていたこともあり黒色のウインドブレーカーを着ていた。ピンク色のウエアの襟元がわずかに見えた。

 上位陣がスコアを伸ばしたなら追いつけないかも知れない。「優勝スコアは8アンダーか。風も相変わらず吹いていましたからね」。これがスタート時の鈴木の心境だった。それでも心強さをいくつか持ち合わせていた。

 2戦前の日本プロシニア選手権で2位タイ、1戦前の佐世保シニアオープンでは3位タイと優勝争いを演じ、好成績を収め、ゴルフの調子も上向いている。勢いがある。練習ラウンドでコースを回った際には、グリーンコンディションの素晴らしさに喜びを覚えた。「グリーンがとても綺麗に仕上がっていて、しかも速い。速いグリーンが好きな自分に向いている」という好感触を得ていたのだった。さらにはレギュラーツアー通算8勝を飾った鈴木にとって最後の優勝となったマイナビABCチャンピオンシップ(09年)が、この週に開催されていることもどこか因縁めいているようにも感じた。「マイナビで勝った年は、それから2試合ベスト10を外さなかっただけに『この時期は強いんだ』と思えました」。

 いつもは、すぐにマイナス思考になってしまう傾向がある。「控えめはダメだよ」と渡辺司からアドバイスを受けてもいたが、これまではとても前向きにはなれなかった。そんな鈴木が強い気持ちになれたというのだ。

 前半を2バーディー・1ボギーで折り返し、サンデーバックナインに入って2ホール目の11番パー5ホール。風速3.9m/s。気温17.7度、体感温度はさらに下回る。2打目を打つ前に鈴木は着ていたウインドブレーカーを脱ぎ、半袖姿でショットに臨んだ。勝負の狼煙を上げる儀式だったのかも知れない。自分にムチを入れる所作だったのかも知れない。フェアウエイの緑色が、ウエアのピンク色を際立たせる。そして11番、14番、17番ホールでバーディーを奪い、通算6アンダー首位タイで迎えた最終18番ホール。3打目をピン左横5メートル地点のカラーに乗せた。

 「スライスラインと読んだらハウスキャディーさんが『それほど切れません』とハッキリ告げてくれたのです。実は大会前日のプロアマ大会から3日間、同じキャディーさんで、ラインの読みを迷わず言ってくれたお陰で、不安なくパットが打てていました。外れた時は、僕の打ち方が悪かったのが原因です(笑)」

 鈴木はストレート目に打って、ボールをカップにねじ込むと右拳を力強く突き上げてみせた。めったに派手なパフォーマンスをしない鈴木のガッツポーズ。「最終組の(首位タイ)マイヤーが最終ホールでバーディーを獲るだろうと思っていたので、絶対に決めかった」と鈴木。さらにはプレーオフも覚悟していたという。

 これまでレギュラーツアーでのプレーオフ成績は1勝4敗。ティーショットで2回続けてOBショットを放った苦い経験も味わっている。しかし、怖さはなかった。「2位は確定していたので、思い切って楽しんでやろう」。そう思った鈴木は、気温が一段と低くなったにも関わらず、半袖姿で18番パー5ホールでのプレーオフに臨み、ツーオンに成功。4メートルのイーグルチャンスを作り上げた。

 一方のマイヤーは1.5メートルのバーディーチャンスに着けていた。鈴木が1パットなら優勝。「(一発で)決めたかったし、でも、外すと返しのパット距離が長くなりそうなラインでした。バーディーで分けたらまたプレーオフだと、最後はそう考えて打ちました」。カップインはできず、カップ60センチの位置にボールは止まった。

 マイヤーのバーディートライ。ボールはカップインの音を奏でなかった。

「スライスかフックか。悩み、読み切れず、そのまま打ってしまったのが敗因です。迷って打つパットは入らない。どちらか決めて打つしかないですよね…」とマイヤーは唇を噛み締めた。

 鈴木は60センチのウイニングパットを沈め、初優勝という重い十字架を下ろし、万歳ポーズでこの瞬間を喜んだ。夕陽を背に受けたピンク色のウエアが一段と映えた。「娘(タレント/愛理)のイメージカラーと同じく、僕の勝負色もピンクなんです」。スタート前から意を決していたからこそ、鈴木はウエア選びに迷いは無かったのだ。勝負に挑み、鈴木はついに勝った。自分自身に勝ってみせた価値ある一勝だった。

(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)