大会初日の前日に開かれたプロアマ大会。天気予報どおり、午後からは雨粒が落ちて来た。全組の選手がホールアウトし、表彰式出席のために着替えをしようとロッカールームへ足早に向かう。クラブハウス内は慌ただしい空気が漂う。
そんな中、寸暇を惜しむようにレインウエア姿の選手が、ただ一人、パッティンググリーンでボールを転がしている。雨の中、何十分、練習を積んだだろうか。満足そうな面持ちでクラブハウスに戻って来た。
「一から出直しです。あまりにも成績が出ないから、気分転換ですよ」。そう言って井戸木鴻樹が差し出して見せてくれたのは長尺パターだった。
「ショットは絶好調、それをパットで生かせない。佐世保シニアなんてパットが決まっていたら10アンダーにはなっていた。それが入らないから…。プロ仲間から長尺パターを2本もらった、その1本のシャフトを1インチほど切って使いやすくしたんですよ。古いパターだからグリップは経年劣化でドロドロに溶けている。グローブが何枚あっても足りませんよ(笑)」。その対策としてグリップにはテーピングが施されてあった。パターカバーも取扱い方が粗雑だと壊れそうなほどの年代物に見えたほどだった。
「実はパットをするのが気持ち悪くなってしまってね。(パットの距離が)短くなればなるほどヘッドの先から手元に電気が走る。その点、長尺パターだと電気が走らない。その鈍感さが良い」と井戸木。レギュラーツアー時代は「1日限定」で5、6回使ったことはあるが、シニアツアーでは「初導入」だ。気分転換で手にした長尺パターが、国内シニアツアー2勝目をもたらす魔法の杖となるか。注目したい。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)