「他に誰かいましたか?」。スコアを5つ伸ばしてホールアウトした崎山武志は、スコアカード提出後に、スコア集計ボランティアスタッフにそう尋ねた。「まだ、いませんね」の返答を聞いて、嬉しそうな表情を浮かべたのだった。
337ヤードの4番パー4ホール。ティーグラウンドからグリーンに向かって打ち下ろしのこのホールには大会期間中、イーグル賞として特別賞金20万円(複数均等割り)が懸かっていた。「まだ一人」ならまるまる懐へ入る。「僕以外に達成者がいると目減りしますからね」と崎山はニタリと笑った。
「僕のドライバー飛距離では届くかどうかでしたが、惜しくもエッジのギリギリというか花道の左にボールは止まっていました。2番ホールでも似たような寄せを打っていたのでイメージは出せました」。ロフト58度のサンドウェッジではなった2打めは心地よいカップイン音を奏でた。チップインでのイーグル奪取。その後、崎山は8番ホールでボギーを叩いたものの、9番ホールで2メートルのバーディーパットを沈めてバウンスバックに成功。前半でスコアを2つ伸ばし、後半も13番ホールでのチップイン・バーディーと16、17番ホールでの連続バーディー舵手で着実にスコアを伸ばした。1イーグル4バーディー1ボギー67をマークし、通算6アンダーでフィニッシュ。13位タイから3位タイにジャンプアップを遂げた陰には、力強い味方がいたのだった。
「3年前のこの大会で、僕がバーディーを取った時に一生懸命に拍手をしてくれていた男の子がいたんです。そのバーディーボールにサインしてその子にお礼代わりに渡したら、それがきっかけになってゴルフを始めたと後から伝え聞きました。その子も今年は小学3年生になり、昨日も今日もコースに駆けつけ応援し続けてくれました。
オフの明日は、その男の子とプライベートラウンドするんです。最近はゴルフ熱が少し冷めてきたようだとお父さんから聞いているので、いい刺激になってくれれば嬉しいです」。崎山は目を輝かせながら、そう語った。
次代を担う子どもたちがゴルフに少しでも興味を持ってもらいたい。ゴルフの面白さ、楽しさを伝えたい。この日の猛チャージは「ゴルフ伝道師」崎山の面目躍如だが、本当の役目を果たすのはオフの明日、小学3年生の男の子のゴルフ熱を再燃させること。崎山以外「他に誰もいない」のだから…。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)