川岸良兼(51)は「OB打たなかったのは神様の思し召し」と笑顔を見せた。
7番ティーグラウンド。「アドレスした瞬間に、OBに行きそうな雰囲気があった」という。案の定、右に飛び出したが、飛距離が出ていたことで「平らなところに出ていた」と助かった。そこから5メートルにつけてこの日初バーディー。「こんなもんなんだなあと。ミスしたらバーディー、いいショットをしたら入らない」と思った。気が楽になった。
後半はチャンスについたのがことごとく入った。11番4メートル、13、14番1メートル、16番でも1メートルと、どんどんスコアを伸ばしていく。18番パー5では第1打を左の斜面に打ち込んだが、ここも飛距離が出ていた。左足下がり、ピンまで残り252ヤードを3番ウッドで左手前15メートルほどに乗せた。「僕の理想的なドローを打ったらOBになりそうなライだったけど、もうあきらめたんで。ドローを打つのは。だからうまく打ったでしょ」と振り返る。
昨年シニアデビューして、従来の持ち球のフェードをドローに変えようとしていた。フェードでも十分飛距離はシニアでトップクラス。「でも、もっと飛ばしたいからドローを打ってみたいんですよ」と、周囲が反対したり、いぶかっても球筋変更を続けてきた。シニア1年目は優勝争いに加わったことはあったが未勝利。今年も9試合でトップ10入りはない。やっとわかったのは「スライス(フェード)を打っても僕は飛ぶ」ということ。本来の自分に戻った。
会場の石川県小松市は生まれ育った故郷。車で10~15分の実家から通っている。友人はもとより、川岸を知る地元の人たちの応援も力になっている。「『良兼!』なんですよね。だれも『川岸プロ』って呼んでくれない。いつまでたっても昔のままなんでしょうね、地元では。それでもありがたいです。成績が伴わないといけないですね」。奮起のきっかけになった。
やっと、初優勝を狙えるところに来た。「残りのゴルフ人生は短いんだから、ドキドキしてやれたら。楽しくやりたいですよ」という。レギュラー時代も石川県で試合があったが、硬くなっていいところがなかった。シニアになって「楽しさ」を口にできるようにもなった。最終日のプランは?「神様の思し召しを祈って寝ます。ティーショットさえ、その辺に行ってくれたら」。シニア入りして初優勝のチャンスが故郷の地。最終日にどんな「思し召し」があるだろうか。
(オフィシャルライター・赤坂厚)