耐えに耐えた。そのご褒美が3打差逆転の優勝だった。
首位と3打差の通算イーブンパー3位タイから発進した佐藤剛平が、5バーディー・ノーボギー66の完璧ゴルフを展開し、グランドシニア初優勝を飾ったのだ。
「組み合わせ表を見て驚きました。最終組は3横綱に幕下の僕。でも、その緊張感を保ったままプレーしたなら、これまでとは違う結果になるに違いない」
佐藤は、通算3アンダー首位の芹澤信雄、通算2アンダー2位の尾崎直道、通算イーブンパーの倉本昌弘との最終組の組み合わせをプラスの方向になるように考えた。
「グランド・ゴールド競技ながら5000人ものギャラリーがコースへ足を運んでくれるこの大会で無様なプレーは出来ないし、みっともないミスショットも打てない。これまでは優勝争いの緊張感から逃れようとしていた自分がいました。無難にプレーして、ボールを打って…。
でも大勢のギャラリーに見守られていると無難なプレーはできません。ならば、思い切り体を使ってスイングし、打ってやれ!って。パットも寄せるではなく、入れることを優先させました」
攻撃的なゴルフが奏功した。逃げた一打は一切ない。たとえミスしても精神的な積極さがマイナス思考を封印してくれた。「不思議ですよ。アドレナリン効果ですかね。ドライバーの飛距離がいつもと違う。3横綱よりも飛んでいたホールもありました。『まさか高反発ドライバーじゃないよな』と冗談混じりに尋ねられたくらいですよ(笑)。 不思議なもので普段出ないことが出る。それも幸いなことに、悪いことでなく良いことばかりが今日は出ました」
2位に2打差を着けて単独首位で最終ホールを迎えた。パーパットは下りの50センチ。これを刻み、2打で上がっても勝てる。そう考えている目の前で、佐藤が称する横綱の倉本がバーディーを奪い、2打差に詰め寄った。尾崎は5メートルのバーディーパットをねじ込んで1打差に肉薄したのだった。
「やっぱり一流は違いますよ。幕下にはそう簡単には勝たせてくれない。50センチのパットを一発で決めなければプレーオフに突入する。心臓のバクバク音が聞こえて来そうでした」
それでも緊張感、集中力は途切れさせなかった。カップイン。
「60歳を過ぎて、涙が出るような試合ができて本当に嬉しい。これからも、もっともっと涙を流せるようなゴルフができるように頑張ります」
佐藤は関東グランドシニア優勝に次ぐ、グランドシニア連続優勝の快挙を成し遂げた。2013年、三好隆の関西グランドシニア、日本グランドシニア優勝以来の記録だ。「実は今年1月からジム通いを始めました。もっと飛ばしたい。それに終わった後の一杯が美味しくなるから」と照れてみせた。佐藤が横綱を倒して「大金星」を挙げた記憶にも残る一戦だった。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)