「ホールインワンを達成したしたら優勝できない」。そんなジンクスが、ゴルフ界では信じられている。溝口英二(54)もその1人だ。
第1ラウンド、14番でホールインワンを達成した。「ホールインワンしたら優勝はないって考えますよね、普通。(難しい)鳴尾だし、トップ10、トップ5みたいな感じになりますよ」。
1打差2位でスタートした。やはり、優勝は考えていなかった。「勝てると思っていなかった。甘くないコースですし、勝とうと思ったら、自滅する。自分がいつ崩れるかと思ってやっただけです。(みんなの)スコアを見ていないです。」という。それがよかった。
4番でピン上3メートルを入れてバーディーが先行した。9番では4メートルを入れた。通算4アンダーに浮上。この時点で首位争いは大混戦。4アンダー、3アンダーがひしめき、上がっては落ちる、入れ替わる、を繰り返していた。
溝口も10番で3パットのボギーにして一歩後退。11番で1メートルにつけて一歩前進。抜け出したのは13番で30センチにつけ、14番パー5では第2打でグリーン近くまで運んでアプローチで30センチと、連続バーディー。6アンダーとした。同じく6アンダーだったソク・ジョンユルが16番から3連続ボギーで後退し、単独首位に立った。
15番でバンカーにつかまってボギー。また1歩後退したが、その他の上位陣も、選手たちが一様に口をそろえる「15番以降の難しさ」にはまって、スコアを落としていく。
「結果的にはあのパーパットでしたね」と振り返るのは、17番。手前にショートしてアプローチが2メートルほどピンをオーバーした。そのパーパットが入って5アンダーをキープしたのが、他の選手たちを「自滅」に追い込んだ形になった。
4アンダーにいた前の組の寺西明、河村雅之が、最終18番で罠にはまる。寺西はティーショットの右の林に打ち込む。河村は10メートル超のバーディーパットを狙いにいって2メートルオーバーする3パット。2人とも3アンダーに後退し、スコアを知らない溝口を楽にした。
優勝を意識したのは、18番のグリーンに上がったとき。グリーンサイドのスコアボードで、2位と2打差あった。「やっとボードを見て知った」という。ホールアウトして「おめでとう」と声をかけられたが、最終組がまだだったので確信にはなっていなかったという。
今季富邦仰德シニア盃でシニア5年目の初勝利を挙げた。「1勝したので、満足していた感じがあった」という。加えて、9月ごろから右わき腹を痛め、検査で「(肋骨が)ひびというか、骨が剥離というか。痛みをかばってスイングのバランスが合わなくなってきて」という。安静だけが治療法なので、シーズン終了を待っていたような状態だった。
「プロがこんなにスコアを出せない鳴尾GCはやっぱり素晴らしいコースだと思います。たまたま僕は、最後の方で耐えられただけです」と振り返った。欲がなかったのが、功を奏した。
シニアになって「賞金だけでは食べていけない」と、ラウンドレッスンをするようになった。「全国で知り合いの方に呼ばれると行きます。アマを教えるのは、砕いて言わないといけないとか、自分から発信しないといけないので、いろんなことを考えるようになった。それが試合のためになったと思う。お金をもらう以上、いい成績を出さないと受けてもらえないし、責任もありますんで」という。アマとかかわることで、自身の成長にもつなげた。
今季はあと1試合、最終戦を残すが「もうおなかいっぱいです」と笑った。「来年、ディフェンディングチャンピオンとして、またこの大会に臨みたいです」。このセリフは、少し声が大きくなった。
(オフィシャルライター・赤坂厚)