「さすがですね」。水巻善典(61)は、自分に向けて言った。それだけ、この日のプレーは満足の行くものだったのだろう。
「さすがですね」は、このコースに所属しており「どこに行ったらどうすればいいか」「1番から18番まで、コースがどうなっているか」を知っている強みを生かせたこと、でもある。
深いバンカーがグリーンをガードしているホールがほとんど。「今日は、バンカーから取りまくりでしたから。失敗したところもあったけど」と振り返る。1番でバンカーに入れて1メートル強に寄せたがボギー発進した。2番でも右のバンカーに入れたが、1メートルに寄せてパーをセーブした。4番では手前のバンカーから15ヤードほどを直接入れるバーディーで取り返した。
2つ落として折り返したインに入って、プレーがうまく回り出した。10番でグリーン右手前から15ヤードのアプローチを入れるチップインバーディーから始まった。11番で右3メートル、13番で左手前3メートル、13番では1メートルと4連続バーディーで一気に浮上。15番では右手前バンカーから、16番ではグリーン手前30ヤードほどのアプローチを、ともにOKにつけてパーを拾ったのが大きかった。17番で手前3メートルを入れて首位に立つ。最終18番では4メートル弱のバーディーパットを「これを入れたら後半29だと思ったら緩んじゃった」と外したが、納得のいく67だった。
いまは年10回ほど、ラウンドレッスンをしたり、コースの若いプロと一緒に回ったりする。「高麗グリーンの芽やバンカーも、ピンがこの位置にある時はこっちに行った方がいいとか、分かっている」という。ただ、分かっていてもできないとスコアにならない。「今日は風邪でちょっとふらふらしていたんですけど、ソツなく、肝心なところがうまくできたということですかね」と笑った。
このコースを攻略するにはどうしたらいいのだろうか。
「マネジメントしないとだめなんです。このシチュエーションではこの球を打たないといけないというのがはっきりしているんです。そこを理解すれば、分かりやすいコースなんですよね」。
「グリーンのスピードだけが問題なんです。遅い時はこっちに切れる、速いと切れないとか」。
「ピンの位置によって、バーディーを取れるホールがはっきりしているんです。攻め方がはっきりしているんですけど、みんな迷っているんですね」。
1920年に鳴尾浜に鳴尾ゴルフ倶楽部として設立され、1930年に新たなコースとして現在の地に開場した。来年で倶楽部創立100周年を迎える。重機を使わずに自然の起伏を利用した。6429ヤード、パー70と距離は短いが、小さくて固い高麗グリーン、ホールをセパレートする木々、絶妙に配置されたバンカーなど、ショットの多彩さを試されるコースでもある。
最終日、優勝のチャンスだが?「僕も普通にやれば65ぐらいでは回れる。でも、普通にできるかが分からない。最後までいいところには行くと思いますよ。ただ、倉本さんがね、このコースが好きなんで、調子がよければ63、64で回ってくる」と、1打差4位につけた倉本の名前を挙げた。
「知っている」ということは、コースの「怖さ」も分かっている。その分、プレッシャーにもなる。「普通に」できたら、最終日にもう1度「さすがですね」と言えることになるのだろう。
(オフィシャルライター・赤坂厚)