「えっ、何ですか? 忙しいんですよ。練習場へ行かなければならないし、アプローチショット練習もしたいし、それにパットもね」。クラブとパターを抱えた齋藤義勝を呼び止めると、間髪入れずにそんな言葉が返って来た。そのあとに、冗談ですよの笑顔がこぼれた。首位に立った気恥ずかしさだったのだ。7バーディー・1ボギー66、6アンダー2位タイの好順位に着けた。自身初の最終日最終組からのスタート。スコアカードを提出した時点ではクラブハウスリーダーとなったのだった。
今季はQT9位の資格によってシニアツアーに初のシード入りを目指してフル参戦。しかし、広島シニアゴルフトーナメントでの9位タイが今季自己ベストフィニッシュ。最終日は裏街道とも称されるインコーススタートが続き、思うような成績を残せずにいた。現在の賞金ランキングは56位。シニアツアーは、この試合含めて残り4試合。齋藤にとってはお尻に火が点いた状態だ。
「ショットの絶不調が開幕からずっと続いてしまって…。何しろ大会初日のスタートホールでOBショットが飛び出しての打ち直し。そんなことばかり続いていたのです。自分でもどうスイングしたらまともなショット、フェアウエイを捕らえられるボールを打てるのかがまったく分からなくなってしまったのです」。
所属先の芳賀CCでは支配人の重責を兼務している。ツアーのオープンウイークでは、ブレザーを着込み、支配人業に勤しむ。コースラウンドをしたり、練習場でスイング修正をしたりしている暇などない。その積み重ねによって、自身のスイングを取り戻せずにツアー終盤戦を迎えていたのだ。
「それでも所属先のメンバーさんたちから、顔を合わせるたびに『頑張れよ』と声を掛けて頂ける。有難かったです。だから、ツアー会場へ来たら必死になってボールを打ち続けました」。
所属先の先輩プロには、今年の日本プロゴルフグランドシニア選手権を制した佐藤剛平がいる。「スイングに対して直接的なアドバイスはありません。ただ、ひたすらに練習するしかないと言われるだけです」。それでも一筋の光明が差した。「これかな?というポイントがあって、それを先週あたりから取り入れたら、ショットが落ち着き始めたのです。明日の最終日も、それを継続実践して、上手く行ったら、詳しいことをお話ししますよ。でも、最終組のメンツは横綱級ですよね。僕なんかは前頭、十両かな。緊張から決して良いゴルフはできそうにない。それでもしぶとくパーを積み重ねて行きますよ」。
斎藤の勝負の18ホールは、優勝という金星をもたらすか、それとも土まみれになるか。先輩の佐藤は、シニア界の横綱たちを下して逆転優勝を飾っている。その再現となれば支配人業としても最高だ。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)