「まるで湯気が出ているようでしょ? だって、昨日が僕の誕生日。50歳になりたてのホヤホヤですよ」。
大会を前日に控えた25日。50回目の誕生日を迎えた翌日、篠崎紀夫はシニアデビュー戦に向け、練習グリーンで最終調整を行っていた。身長162センチ、体重67キロの小柄な体を左右に傾けながら歩く姿はレギュラーツアー時代と少しも変わらない。
高校卒業後から本格的にゴルフを始め、その4年後にはPGA資格認定プロテストに合格したものの、ツアーでは思うような成績を残せない日々が続いた。だが、2007年に一気に開花。ANAオープンで3人によるプレーオフを制して念願のツアー初優勝を飾る。その後、背中痛が悪化し、一時ツアーから撤退したが、12年には再シード入りを果たした実績を持つ。
「実は先月はレギュラーツアーANAオープンのマンデーに挑戦したのですが、5アンダーで本戦出場権を得ることができました。若い頃とは違ってガッツず、気楽に回っての好スコアマークに気を良くして『本戦も力まず、楽しくプレーしてみよう』と思って臨んだら、見事な返り討ち。ショットも気持ちも緩みっぱなしで、ボギーが止まらず仕舞いになってしまいました」。
マンデートーナメントや各地区オープンに積極的に挑み、試合感を錆びさせずに来た。「ツアープロ生活を30年近く過ごして来ましたが、シニア入りですべてリセットさせる感じです。だって、自分より年上の先輩プロしかいないのですから、プロに成り立て当時をどうしても思い出してしまうから、初心に戻りますね。50歳の新人シニアプロです」と、現役時代にはみたことのない柔らかい笑顔を浮かべながらそう話した。まるで遠足を控えた少年のようだ。
「シニアツアーのゲームの流れもコースセッティングもまだ分かっていませんし、1ラウンドでも早くシニアツアーに慣れ、結果を出したいですね」。
10月24日生まれの篠崎は、あえてシニアツアーQTを受験した。QT上位の順位を確保してもツアー日程的には4試合に出場できるかどうか。来季の賞金シードを確定させるのに試合数が少な過ぎそうに思えるが「シード当確ラインは700万円超でしょうね。残り4試合もある!ではなく、1試合しかない!と思って臨みます。一番の下っ端(シニア若手)なので、先輩方に気づかれないように上位をしっかり狙って行きます」。
残り4試合で賞金シードを獲る!獲ってみせる!そんな熱い気持ちが伝わって来る。「やる気」の湯気を篠崎が発していたからだろう。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)