「お陰様で、凄く勉強になりました。シニアプロといっても、いやむしろシニアプロだからこそ、この経験をこれからのゴルフに生かして行きたいです」。真っ黒に日焼けした顔から白い歯を見せ、長距離移動の疲れの無さをアピール。だが、突然、引き締まった表情を見せたのは寺西明だ。
2017年のシニアツアー最終戦「いわさき白露」で初優勝を挙げ、昨18年11月のISPS・ハンダ・カップシニアで2勝目を飾り、賞金ランキング自己最高の6位になっている。その成績から今年7月下旬に行われた全英シニアオープン(ロイヤル・リザム&セント・アンズ ゴルフクラブ)の舞台に立った。
「世界メジャーは初体験でした。何に一番驚いたかというと、シニアトップ選手たちのスタートへの気持ちの持って行き方でした。練習場での過ごし方、ラウンド、すべて自分のルーティーンで行っている。それはまるで普段着ゴルフのようで、僕なんかは紋付袴をまとってティーに上っていたように思います」。
ノンビリとボールを打っているように見えていたのに、その内容は実に濃かった。試合が始まると緊張の糸を徐々に張り詰め行く。「気持ちのスイッチの切り替えの上手さも肌で感じさせてもらいました。それにコースの難しさはゴルフの奥深さを改めて考えさせてくれました。フラットなライなんて皆無ですし、キャリーボールで攻めたのではボールがどこへ行くかの予想が立たない。聞いてはいましたが、実際にプレーして痛感しました。風によってボールの曲がり方は日本の倍、マウンドによる跳ね方も転がりも倍。日本で10ヤード見当が、向こうでは30ヤードは必要になるんですからね」。ゴルフカルチャー・ショックを全身で受けた。予選通過を果たせなかったが、「バンカーに捕まってばかりで、バンカーショットは上手くなりましたよ(笑)」。4日間プレーできなかった悔しさを、とぼけ話で誤魔化してみせたが、最後に真顔になってこう言い切った。「もう1回メジャーに出たい。そのためにも好成績を挙げなくては。ですから、これから一戦一戦、すべて優勝を本気で狙って行くだけです。勝たないと……自分に克たないと始まりませんからね」。再び世界メジャー出場!を目標に掲げた寺西が、どんな面持ちで明日のスタートティーに立つのか。興味がフツフツと沸いて来た。
(PGAオフィシャルライター 伝 昌夫)