通算8アンダー単独首位で最終日を迎えたプラヤド・マークセンは、大会3連覇に王手を賭けた気分だったに違いない。1打差の2位の谷口徹は「ドライバーの飛距離、アイアンショットの切れ、アプローチ、パットも上手い」と、そのショット力の高さを前日同組で回って感じていた。逆転優勝をする伏兵すらもういないのか--。
ストップ・ザ・マークセン。3年連続シニア賞金王の前に立ち塞がったのは63歳、永久シード選手、レギュラーツアー30勝、シニアツアー7勝の倉本昌弘だった。
最終組の一組前、通算3アンダー6位からスタートした倉本は前半で4バーディーを奪取し、サンデーバックナインに入った。4ホール連続パーセーブ後に迎えた14番パー5ホール。ツーオンに見事成功し、イーグルパットをねじ込む。通算9アンダー。この時点ではまだ、最終組の首位マークセンとは1打差があった。
飛距離の出るマークセンはパー5ホールでのバーディー奪取は確実だと、誰もがそう思い込んでいた。だが、ほんのわずかなミスが大きな一打となり、集中力の糸がプツリと大きな音を立てて切れることもある。
倉本のイーグル奪取でグリーン周りのギャラリーは大きな声援と拍手を送った。コースに漂っていたマークセン3連覇確実の空気が吹き飛ばされたのだ。
マークセンは倉本がイーグル奪取をした14番ホールのグリーン上で、カップにボールを沈めるのに4回も要した。痛恨の4パットで通算8アンダーとなり、2日間と14ホール守り続けて来た首位の座を明け渡したのだった。
最終組の谷口徹は同グリーン上でバーディーパットを決め通算9アンダーとし、単独首位に立った。倉本は15番パー4ホールでもバーディーパットをねじ込み、通算10アンダー。谷口もまた同ホールで連続バーディーを奪い、首位タイとなる。
16番パー4でバーディーチャンスを迎えた倉本。パットラインを読み切り、アドレスに向かおうとした時だった。「倉本、頑張れ~」。一人のギャラリーが声援を送った。「頑張っているよ~」と白い歯をこぼし、その声援に応えた。優勝争いの中、シニアツアーらしい一場面だった。
倉本のバーディートライは実らなかったものの、最終18番パー5ホールでは2打目をグリーン手前まで運ぶ。「これを決めたら(チップイン・イーグルなら)エージシュートだ」と頭の片隅でそう思いながら放ったが、実現ならず。バーディーフィニッシュでホールアウト。1イーグル・6バーディー64、通算11アンダー。クラブハウスリーダーとなり、最終組の結果を待った。
マークセンは通算10アンダー、谷口が倉本同様に15番ホールに続いて最終ホールでもバーディー奪取し、通算11アンダーフィニッシュ。勝負の行方は倉本と谷口とのプレーオフにもつれ込む。
18番パー5ホール。谷口は2オンを狙った2打目をミスし、グリーン花道手前に運ぶのが精一杯。倉本はグリーン右サイドに運ぶ。ともにパーオンしたが、ピンそばに寄せ切った倉本がバーディーパットをねじ込み、谷口のシニア初優勝を阻止する形で大会20回目の覇者となったのだった。
「(ウイニングパットとなったバーディートライ)打った瞬間に入ると思いました。
谷口、手嶋(多一)と50歳で入ってくる選手は強いですよ。素晴らしいと思います。これからシニア入りする藤田(寛之)もレギュラーツアーを掛け持ちしている選手ですから実力は十分にあると思います。
そういう形での活気づきはあると思いますが、シニアツアーはあまりそういう活気づきは望んでいなくて、スポンサーの心を繋ぎとめられるツアーでありたい。今回のようにスポンサーの方々が総立ちで拍手をして喜んで頂ける試合は中々ありません。レギュラーツアーや女子ツアーにはないものだと思う。それがシニアツアーの良いところです。これからもそういう試合を続けていければいい」。
優勝者インタビューの席上、最後は会長職の顏も持つ選手としてのコメントをきちんと残したのだった。