大会2連覇を果たした山添昌良(51)は、笑顔というよりは、きょとんとした表情で会見席に座っていた。
「どういうことですかね…。逆転なんか、考えていなかった。スコアが離れていたし、ロングは取れるのでみんな伸ばしてくると思っていましたし、今も実感ないです」。
11アンダーのデービッド・イシイに4打差で、最終組の3組前でスタートした。2つスコアを伸ばして8番パー5では第2打で奥のバンカーに入れ、1.5メートルに寄せてバーディー。9番でも取って「ハーフターンで11アンダーまで行って自分では調子いいぞとは思ったんですけど」という。それでもまだ「優勝」の文字は頭になかったという。
11番を取り、15番パー5のティーイングエリアで「18番のスコアボードが見えて、12アンダーで並んでいた。その時、チャンスないことはないなって思いました」。15番を取り、16番へ。ここで昨年この大会を制した経験が生きた。ピン上8メートルのバーディーパット。「去年と同じピン、ボールの位置。下りのフックラインというのは分かっていました。グリーンの速さも。『去年はパーだったけど、知ってるよ』って言い聞かせて打った。もちろん、入るとか思ってはいませんでしたけど」というパットが、カップ近くで大きく左に切れてカップイン。結果的にこのバーディーが効いた。
最終18番で1.5メートルのパーパットを沈めて、通算14アンダーでホールアウト。「プレーオフか、プレーオフじゃないか、どうすればいいかとか、全然わからなくて。プレーオフに残れればとは思っていましたけど」。
後続を待った。1組後ろで同じ14アンダーで並んでいたソク・ジョンユルが18番で手前20メートル近いバーディーパットを2メートルほどオーバーさせ、返しも外してまさかの3パットボギーで単独1位に。12アンダーで来ていた最終組の倉本、マークセンもそのまま伸びず、今季初勝利、通算3勝目が転がり込んできた。
第1ラウンドで「研修生の時からのあこがれ」の倉本と回って「ショットを見てヒントをもらった。2日目からだいぶいい感じになった」という。中でも3日間吹いた風への対応。「倉本(PGA)会長を見ていて『うわっ、こういう感じでやるんだ』って思いました。自分では忘れていたこともあって、その場その場でこんな(ショットの)使い方があるんだって」と、振り返った。
昨年開幕戦金秀シニアで初優勝し、この大会で2勝目。春先にブレークした。秋以降は優勝争いからは遠ざかった。「出来過ぎと実力があるんです。去年は春が出来過ぎ、秋が実力なんです。そう思って生活しています」と笑う。ただ「レギュラーで活躍できなかった山添でも、シニアで活躍できるんだということだけでも大発見。すごく自信になりました。プロをやっていてよかった。シニアツアーがあるということに感謝です」と、レギュラー時代に味わえなかった世界を、50歳を過ぎて経験している。
この優勝で、さらに上の世界への招待状が届いた。次週6月7~9日に千葉・成田GCで行われる「Mastercard ジャパン選手権」への出場権を獲得した。「すごい楽しみ。図鑑に載っている人たちばっかりが出ているんですよね。テレビで見る人ばっかりが出てくるんですもん。雲の上じゃなくて、もう宇宙の世界ですよ。勉強させてもらいます」。担当者からエントリー用紙を渡され、これも緊張した表情で書き込んでいた。
(オフィシャルライター・赤坂厚)