「本当に有り難いよ。助かるよ」。スコアカードを提出した佐野修一(72)は、流れる汗を拭きながら、大きな声でそう発したのだった。
「何歳になってもプロはプロ。トーナメントがあってこそなんだよ」と続けた。
コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、トーナメント開催中止の知らせが届く。日々鍛錬、日々精進を信条にしている佐野でも、練習に身が入らない。そんなシニアプロたちを救うことも開催趣旨に掲げたISPS HANDAコロナに喝!シニアトーナメントは、まさに救世主となった。「プロゴルファーとしての自分を見失いそうだったけれど、『方向性』を着けてもらったと思う」。佐野は感慨深く話す。練習に俄然気合いが入った。張り合いが出来た。
質が高まった練習を積み重ねて来た成果を、佐野は大会初日に早速スコアに出して見せた。1イーグル・5バーディー・1ボギーの66。6アンダーをマークしてエージシュートを達成し、2位に1打差の単独首位に立ったのだった。
インスタートの10番ホールでバーディー奪取、2ホール目の11番パー5ではツーオンしてのイーグルパット4メートルをねじ込んで調子の波に乗った。前半で4つスコアを伸ばし、後半アウトコースに入ってさらにスコアを二つ伸ばして迎えた5番パー3ホール。ピンを筋ったボールは1メートルに止まった。「ニアピン賞獲得!」。気を良くしながらグリーンに向かうと、同伴競技者のボールがさらにピンに近かった。「本当かよ、俺の方が近くないか、もう一度計測してみてよ」と計測スタッフに願い出たものの、再度計測でも結果は変わらなかった。「ニアピン逃しのせいではないけど、1メートルのバーディーチャンスを逃したのは痛かったよね」。流れを切ってしまったことで、その後の残り4ホールはパープレーに終わったのだった。
「俺が首位? そんな順位なんかよりも(シニアの)プロたちが皆、一生懸命になって練習できる環境、トーナメント開催をしてくれることに感謝しかない。誰が首位でもいいんだよ」。佐野はシニアプロたちの思いを代弁した。「明日(最終日)は全力で頑張ります。方向性が見えたからね」と佐野は言い切った。最後に口にした『方向性』とは、「優勝」に違いない。